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第39話 日本で言えば、さしずめ、天狗、ってとこだ [ミステリー小説]

2005年(平成17年)12月 ネパール王国・パタン

パタンの中心部から少し外れた路地裏には、昼を少しまわった頃だというのに、喧騒(けんそう)も聞こえてこない。
 時折り、子供達が走り回り、「キャー、キャー」という声が聞こえてくるくらいだ。

 よく踏み固められた道は、リキシャ1台がようやく通れる幅しかない。その道の両側は、3階建ての、今にも崩れそうな赤レンガ造りの建物が長い壁のように並び、青い空がカーペットのように見える。
 
 そのレンガ壁には、青いペンキが塗られた分厚い木の扉が一定間隔で並んでいる。

 両手に黒いビニール袋を提げた、ひとりの男が、その中のひとつの扉を、器用に肩と足を使って、ゴトゴトッ、と開け、さりげなくあたりを見回して中に入り、再び、ゴトン、と扉を閉めた。

 狭く、急な木の階段を、ギシギシと鳴らし、4度ほど折り返して3階の部屋の前まで来ると、ビニール袋を持ったままの右手で、木の扉を暗号のようなリズムでノックした。

 しばらくして、中から、ガチャ、と、鍵を開ける音がして、扉が外向きに開いた。
中から肩幅の広い男が白熱灯の逆光の中から顔を出した。

 両手にビニール袋を持った男は、
 「ナマステェ!!多良(たら)さん」と、薄暗い階段の踊り場で、白い歯を浮かべた。
 多良月男(たらつきお)は、部屋から顔だけ覗(のぞ)かせ、
 「おお、ジテン、久しぶりじゃのぉ。元気かぁ?」小さな声でそう言うと、男の肩に右手を回して、部屋の中へ招き入れた。

 「ナマステ、多良さん」ジテンと呼ばれた男は部屋に入ると、ビニール袋を床に下ろし、顔の前で合掌をした。

 多良も、改めて、
 「ナマステ」と合掌をし、すぐに男の手を両手で握った。ふたりの男達は、握り合った拳を何度か揺すった。

 「大丈夫じゃったか?」多良は、窓のほうへ歩み、窓枠の錆びた釘に引っ掛けられたカーテンを少し開いて外を覗(のぞ)いた。
 「大丈夫だよ。途中、見かけないチベッタンが付いて来たから、ゴールデンテンプルの中を抜けてきたよ」ジテンと呼ばれた男も、多良の側(そば)に行き、薄汚れたガラス越しに通りを見下ろした。

 「そうか」
 「あいつら、チャイニーズか、メイビ、マオイストかもしれないね」
 「私、ゴム草履だから、テンプルの中、スッ、と、抜けたよ。あいつら、革靴履いてたからね。入り口で靴を脱ぐように言われて、脱いでいる間に裏口から出て、巻いて来たよ」
 ふたりは、そう会話しながら、窓から離れ、部屋の反対側にある、テーブルの横に置いてある座面のビニールが破れたパイプ椅子に座った。

 「そうか。しかし、警察の密偵かもしれんのぉ・・・」多良は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せた。
 「多良(たら)さん、それ・・・」ジテンは、言いにくそうにそう言うと、多良の頭を指差したまま、口を開けっ放しにして言葉を止めた。
 「ん?何?」多良は、怪訝(けげん)な表情を浮かべてジテンの顔を見た。

 「多良さん、それ・・・」ジテンは再び多良の頭を指差した右手をさらに突き出した。
 「ああ、これか」多良(たら)はそう言うと自分の頭に手をやって、
 「これはな。朝、目を覚ましたら、毛が生えてたんだ」そう言って、両手で髪の毛をかき混ぜた。
 ジテンは、ポカン、と口をあけたまま固まった。
 「ははは。冗談、冗談」多良はそう言うと、
 「ほら」と言って、髪の毛を剥(は)がした。

 その途端、ジテンは、
 「オー、ノー!!」と、目を剥(む)いて、のけぞった。
 「ははは、そんなに、ビックリするなよ!鬘(かつら)じゃ、鬘(かつら)じゃ」多良は愉快そうに笑った。
 「オー、多良さん、ビックリしました。一体、どうしたのですか?」ジテンはそう言うと恐る恐る多良の持っている鬘(かつら)に手を伸ばした。
 「はは、これから寒くなるからな。それに、これは変装じゃあ」そう言うと、薄くなった頭を、クルクルッ、と手で撫でた。
 そして、
 「ほら、ここに付け髭もあるぞ」そう言うと、木の机の引出しを、カタカタッ、と鳴らして長い口ひげを出した。

 「ビックリしました。でも、それ、いい考えだね。チャイニーズの目をくらますには」ジテンはそう言うと、多良から受け取った鬘(かつら)と付け髭をしげしげと眺めた。

 「で、手筈は?」多良(たら)は、真面目(まじめ)な顔になって、体を前に倒し、ジテンの顔を覗き込んだ。
 ジテンは、笑顔で、
 「OKだよ、多良さん。10日後には迎えの車が来ることになってるよ」と言った。
 「そうか。ありがとう。いつも世話をかけるな」多良は、ホッ、とした表情を浮かべた。
 ジテンは両手を前に出し左右に何度も振って、
 「何を言いますか。私のほうこそ感謝します。ダンニャバード」と、両手を顔の前で合わせ、頭を下げた。
 「多良さんがいなかったら、私は今でもハッパを観光客に売りつける商売してるよ。こうして、子供達を救う仕事を手伝うことが出来て、私、幸せね」と、手を合わせたまま言った。

 「こっちこそ、ありがとう。しかし、最近、マオイストの行動は過激になってるからな。国軍との衝突もしょっちゅう起こるし、俺たちの仕事にも支障が出てきたな」多良(たら)は再び、暗い影を額に浮かべ、鬘(かつら)を手に取った。
 ジテンは、瞼(まぶた)を半ば閉じ、
 「そうですね。いつになったらネパールは日本のように平和な国になるのでしょうか?多良さん」と言うと口を一文字に結んだ。
 「そりゃあ、俺にも分からんよ。国王は、ネパール共産党毛沢東主義派が続けている武装闘争が治安の乱れの原因だというし、毛沢東派は毛沢東派で、国王の独裁体制が原因だ、と、言うとるしな」多良はそう言いながら鬘(かつら)を頭にかぶり、鏡を見ながら右に、左に動かして調整した。

 「困るのはいつも貧乏人ね。だから、私は、多良さんに私たちの仲間になってもらいたいのです」ジテンは、多良が鏡の前に立っているのを後ろから眺めながら言った。
 「またその話かい?だめだよ。俺は、そんな新しい国とかいうユートピアは信用せんのんじゃ」多良は鏡の中に映ったジテンを見て言った。
 「多良さん。頑固ね。ハハハ」汚れた鏡の中でジテンの白い歯が見えた。
 
 多良は振り返ると、
 「ジテン。お前、気をつけろよ。お前は国王からも、マオイストからも狙われているんだからな」と、声をひそめて言った。
 「大丈夫だよ。多良さん。多良さんこそ、チャイニーズには気をつけてくださいよ」
 ジテンのその言葉を聞くと、多良は思いついたように、
 「そうだ、お前、その髪の毛を刈って、キキャ−と同じように坊主にしたらどうじゃ!」と言った。
 「ノー!!」ジテンは即座に否定した。


 「ところで、そのキキャーは?」多良は、本気になって嫌がるジテンに笑いながら尋ねた。
 「はい。何とか無事に手に入れたようです。そろそろ帰ってくると思いますが、まだ連絡はありません」ジテンはそう言いながら、ビニール袋から新聞紙の包みを大事そうに取り出した。
 「そうか。それは良かった」多良はその包みを両手で受け取った。温かさが、湿った新聞紙を通じて伝わってきた。
 多良は新聞紙の包みをゆっくりと開いた。
 ジテンは、
 「あの寺院にお供(そな)えしてある物と同じものが日本にあるらしいとは聞いていたよ。でも多良さんが偶然、あの、ミヤ、ミヤ・・・」と言うと、多良は、
 「宮島。ああ、これはうまそうなモモだな」と、目を新聞紙の上のモモに注(そそ)いだ。
 新聞紙の包みの中には、まだ湯気の立っているチベット餃子(ぎょうざ)のモモが20個くらい山になっていた。

 「そう、その宮島で、多良さんが偶然見なかったら、三本が揃うことは、今後、何千年もなかったと思うよ」
 多良はひとつつまむと口に放り込み、窓のほうへ歩み、木枠の窓を、ガタッ、と少し開け、「ピュイッ!」と短く口笛を鳴らした。

 通りの向こうの廃屋(はいおく)から10歳くらいの少年が顔を出した。多良は、少年に向かって2本の指を立てると、少年は、頷(うなづ)いて再び廃屋の暗闇の中に入っていった。
 「そうだな。日本に帰って、たまたま足慣らしに弥山(みせん)に登ったついでに宝物館(ほうもつかん)を見学して、そこで同じものを見た時は驚いたよ」
 多良はギシギシと床を鳴らしながら蟹股(がにまた)で戻ってきてパイプ椅子に再び座り、またひとつモモを口に放り込んだ。
 「モグモグ、しかし、あんなに強引(ごういん)にしなくても・・・モグモグ」
 多良は新聞紙の端で指先を拭(ぬぐ)った。
 ジテンも口を動かしながら、
 「だめだよ。まさか、ニマがチャイナのスパイだとは思わなかったからね」と強い口調で言い、さらに、
 「そのことを聞いてから姿を消したんだから、チャイナもあれを手に入れるために動き始めるのは分かっていたから。チャイナには政治力があるけど、私たちにはそんな力はないからね」と、早口で言った。

 「今回の仕事が出来るのは、多良さんから日本語を教わって、日本語が使えて、しかも腕が立つキキャーしかいなかったからね」ジテンは指を口に持っていき、指にくっついたモモの皮を下の歯ではがし、指をなめた。

 「確かに、あいつは、こっちへ来て育った村で伝統武道も身につけ、それに、あの体、まるでガルーダだからな」多良は厳(いか)つい肩をさらに広げ、自分の胸を張った。
 「ははは、ガルーダね。そう、力もあるし、走るのも速いし、まさに、ガルーダだね」ジテンは、多良の格好を見て愉快そうに笑った。
 「だろ?日本で言えば、さしずめ、天狗、ってとこだ」
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第38話 1889年(明治22年)7月、使節団を乗せた軍艦エルトゥールル号はイスタンブールを出航しました [ミステリー小説]

ヒッタイト人

 神田君はご存知だと思いますが、中国の歴史書の中で日本について書かれたものが、魏志倭人伝(ぎしわじんでん)と呼ばれている書物で、それと同じように、古代朝鮮について書かれたものが、魏志韓伝(ぎしかんでん)です。
 その韓伝の中に、朝鮮の古老の話として、秦国(しんこく)から多くの秦人(しんじん)が戦乱を逃れて朝鮮半島に流れ込んで来た、ということが書かれています。
 やがて彼らは、朝鮮半島に国を作りますが、彼らの一部はそのまま朝鮮半島に残り、そして、一部は玄界灘を渡って、この日本にやって来ました。
 もともと彼らを秦人(しんじん)と呼んでいたのは漢民族です。秦人(しんじん)と呼ばれていた彼らは、自らを秦人(しんじん)とは呼んでいませんでした。
 では、何と読んでいたのでしょうか?
 彼らは、自らを「ハタ」と呼んでいました。自らの出自に誇りを持って、遠い先祖の出身の地の名前を彼ら自身の呼び名としていたのです。

 もう、お分かりでしょう。3000年近く前に衰亡し始めた古代のヒッタイト帝国の首都ハットゥシャが彼らの出身地です。
 彼らは、何千年もの間にわたって移動を続け、ある時は何百年もある地域に留まり、そしてまた移動し、最終的には、この日本にやってきたのです。
 話が混乱するのは、中国人、つまり、漢人は、朝鮮半島へ逃げ込んだ人達は、自分たちと同じ秦国(しんこく)の人間ではないと知っていた事。
 それにもかかわらず、朝鮮半島では、秦国から逃れてきた秦(しん)人だと認識され、そのルーツまでは認識されていなかったこと。
 そして、逃げ込んだ人達自身は、自らの出自は秦(しん)ではなくハットゥシャ、ハタだと分かっていたこと。
 これらのことが、今現在も様々な混乱を招いているのだと思います。

 そして、朝鮮半島から、最先端の技術を携えてこの日本に渡ってきた彼らは、中国から直接海を渡ってやって来た徐福さんの一団と自らを判別し、独自性を保つために秦(しん)と書いて秦(はた)と呼ぶようになったのだろうと思います。

 中国でローマ帝国を表す文字は「大秦」です。つまり、中国では異民族のことを秦人と呼んでいたのです。当時、中国人つまり漢人は、中国以外の地域、長城の外からやって来た人達のことを秦人(しんじん)と呼んでいたのです。

 漢字のないハットゥシャから何千年もかけて移動してきたヒッタイトの人達は、自らを漢字文明圏に入ってきた時、秦(しん)と呼ばれているのを知り、その漢字に彼らの呼び名、ハットゥシャをあて、それはやがて、ハットゥ、ハット、ハタ、と変遷したのです。
  
 彼らは、この日本にやって来る途中、ある地域に何百年もとどまり、その地に都市や国を築きました。

 彼らの移動してきた経路にはそうした痕跡が地名に色濃く残っています。朝鮮半島の慶尚北道にはかつて波旦(はたん)と呼ばれた地域がありました。今の蔚珍郡(うるちんぐん)です。
 さらに遡(さかのぼ)ると、現在の中国、新疆(しんきょう)ウイグル自治区にはホータンという地域があります。

 ごめんなさい。話がどんどん逸(そ)れていっているようです。

 先ほども言ったように、オスマン・トルコは親書と勲章を明治天皇様にお贈くりするために日本に使節団を派遣したのですが、使節団にはもうひとつ、大きな使命があったのです。

 当時、鉄の棒の存在場所は熱田神宮のものしか確認されていませんでした。後の二本の鉄の棒の封印場所の特定は出来ていなかったのです。

 大きな使命とは、その存在の分かっている鉄の棒を入手することだったのです。

 すでに、内々にはその鉄の棒はオスマン・トルコに贈呈されることになっていましたので、親書と勲章の贈呈は、そのお礼と考えてもいいと思います。
 それは、もうじき来る、オスマン・トルコ建国600年を盛大に迎えるために、また、民族の更なる統一と諸外国との友好を図るために最も必要なものでした。
 なぜなら、オスマン・トルコの偉大なる最後の末裔(まつえい)、弁慶の命が封印されている鉄の矢だからです。

 

 「弁慶がヒッタイト人の末裔だってことか!?」

 先日もお話したように、弁慶の祖先は、今の日本人の原型である弥生人(やよいじん)がやって来る前に、既に日本で鉄を製造する技術を持つ一団として生活圏を築いていたのです。 
 彼らは後に「正史」の中では、猿田彦命(さるたひこのみこと)と呼ばれ、やがて、毘沙門天(びしゃもんてん)としても祀(まつ)られるようになり、伝説の中では、烏(からす)や天狗として、今に伝えられているのです。

 「咲姫ちゃんは、やはり毘沙門天(びしゃもんてん)のことに気がついていたのか」
 神田は、今、宮島に烏(からす)や天狗にまつわる話が多く伝えられ、そして毘沙門天が弥山頂上に祀られている理由が分かった。
 
 トルコは、ヒッタイト時代から格闘技の盛んなところです。 そして、格闘技に強い男こそが尊敬され、男として認められるといっても過言ではないでしょう。現代でもトルコで伝統的なスポーツといえば、体中にオリーブオイルを塗って闘うオイルレスリングです。

 「オイルレスリング!!」
 神田はその文字を見て、瞬間的に、あの嵐の日の大男の体の、ヌルッ、とした感触を思い出した。

 「あの大男はトルコ人だったのか!!」神田は思わず口に出した。

 神田は、去年のアテネオリンピックを前に、浜口京子や吉田沙保里の女子選手が来日中のオイルレスリングの競技を観戦した、という新聞記事を読んだことを思い出した。

 「しかし、あんな窃盗を働く必要は全くないじゃないか。中国人のように、それこそ外交ルートを通じて話を持ってくれば済むことだし、日本政府としても、おそらく、鉄の棒にさしたる重要性は感じていないだろう。ひょっとすると、残り二本の存在さえ知らないかもしれない。なのに、何故・・・」

 神田は、モニターの画面をスクロールさせて、咲姫(さき)の文章を追った。

 どうして忍び込んでまでしてその鉄の棒を手に入れようとしたのか。それは、日本とは外交ルートのない組織だからです。

 「すると、奴は、あの大男はトルコ人ではないということか!いったいどこの?」

 1889年(明治22年)7月、使節団を乗せた軍艦エルトゥールル号はイスタンブールを出航しました。乗組員は600名を越していました。
 スエズ、ボンベイ、シンガポール、香港を経由して、およそ11ヶ月の大航海でした。木造の古い軍艦のため、途中トラブルもあったようです。そのため日数がかかってしまったのです。
 
 このことは、やがてエルトゥールル号に襲いかかる悲劇を暗示していたのかもしれません。

 神田は、
 「ああ、あのエルトゥールル号か」と今、分かった。

 無事に任務を果たした使節団は、台風時期に無理を押して帰路に着き、途中和歌山県串本沖で岩礁に衝突、特使を含む518名が死亡という大惨事となりました。

 しかし、その時の地元民の救護活動で69名は死を免れ、手厚い看護の後、明治天皇様の命でトルコに送られたのです。
 皮肉なことに、この惨事が、その後の日本とトルコの友好関係をますます固いものにしたのです。

 神田(かみた)は、1985年の湾岸戦争のとき、イランのテヘラン空港で、国外脱出のために救援機を待つ日本人215名を迎えに来たのは、日本の飛行機ではなく、2機のトルコ航空の飛行機だったと言う話を聞いたことがある。それは、エルトゥールル号の事故に際しての日本人の献身的な救助活動への「恩返し」として当然のことだと、トルコ大使が語っていたのを思い出した。そして、トルコでは、小学生でもこの悲劇的な事故のことは知っていると聞いたことがある。

 咲姫のメールはさらに続いた。

 しかしこの時、大きな問題が起こりました。明治天皇様が、前言を翻(ひるがえ)され、鉄の棒は日本に留め置きたいと仰(おお)せになられたのです。

 「この日本の安泰が何百年もの間保たれてきたのは、鉄の棒を封印していたからこそである。鉄の棒は再び熱田神宮にお祀(まつ)りせよ」と、勅命が下されたのです。
 「この嵐は、天照大御神(あまてるおおみのかみ)様の御心(みこころ)の表れである」と。

 しかし、オスマン・トルコの皇帝アブドゥルハミド2世は、再び親書を天皇様にお贈りになり、何度かの交渉の結果、妥協案が生み出されたのです。ここに至までには、皇室の儀式、しきたりの一切を取り仕切る、八咫烏(やたがらす、やたのからす)と呼ばれる一族のとりなしがあったのですが、今日は、これには触れません。

 「妥協案?」神田は、さらに先に目を移した。
 


 その妥協案とは、ヒッタイト民族と日本民族の分水嶺(ぶんすいれい)でもあり、また、日本民族、日本文化の源流と言われる、ヒマラヤを中心にした地にその鉄の棒をお祀りすることだったのです。

 「ヒマラヤ!」

 そして、エルトゥールル号の悲劇を免れた乗組員をオスマントルコへ送り届けるために、当時の日本の主力軍艦の「比叡(ひえい)」と「金剛(こんごう)」を派遣することが閣議決定されました。

 その戦艦「比叡」に、総理大臣、山縣有朋の密命により、ひとりの人物が乗船しました。彼は、イスタンブールへ向かう途中、インドのボンベイで下船し、ヒマラヤを目指したのです。オスマントルコから派遣され、辛くも悲劇から免れた軍人の一人も一緒でした。

 彼らの任務とは、ヒマラヤ山地奥深くの寺院に「鉄の棒」をお祀(まつ)りすることにあったのです。

 まず、彼らが目指したのは、ネパール王国のパタンです。パタンは、今でも、金属製品製造の盛んな街です。

 「パタン!ネパールにもパタンが・・・」
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第37話 日本人の祖先がこの日本列島にやって来る以前に、縄文人と言われる集団を筆頭に、何度かに分けて民族の集団がやってきました [ミステリー小説]

八頭神社(はっとうじんじゃ)

 12月に入って、年末、年始の行事の打ち合わせの会議などで忙しく過ごしていたある日、咲姫(さき)からメールが届いた。

宮島観光推進協会 神田様

木野花咲姫です。

 ご無沙汰をしています。今年もあとわずかとなりましたが、お元気ですか?
神田君も観光地の観光協会に勤務しておられると、これからがお忙しい時期になると思いますが、お体ご自愛下さい。

 私も、八頭神社(はっとうじんじゃ)の宮司として、これからは忙しい時期に入ります。

 ところで、熱田神宮に「鉄の棒」の三本目が隠されているのではないかという、私たちの推理を確認するために、私のルートを手繰(たぐ)って調べました。

 「鉄の棒」の存在は、ごく限られた人達しか知らず、その存在の確認に時間がかかってしまいましたが、結論から言うと、「あった」という過去形でご報告しなければなりません。

 その存在は国家機密で、草薙の剣(くさなぎのつるぎ)と同等の取り扱いを受け、禁足地(きんそくち)に祀(まつ)られていたようです。

 でも、明治に入って、ある国と友好条約を締結するにあたって、その鉄の棒は国外へ持ち出されたようです。時の内閣総理大臣の山縣有朋(やまがたありとも)の奏上(そうじょう)によって、明治天皇様も、この持ち出しをお許しになられたということです。

 「今はもうない、ということは、三本あった鉄の棒は、全てなくなってしまったということになるのか」
 「ある国とはどこなんだ?」



 明治20年(1887年)に、小松宮彰仁親王(こまつのみやあきひとしんのう)様がその国を訪問され、大変な厚遇(こうぐう)をお受けになられ、明治天皇様は、それに対し、礼状、漆器(しっき)、勲章を贈呈されました。

 これに対して、その国も明治天皇様に親書と勲章を贈呈されるために日本に使節団を派遣し、明治天皇様に謁見を求められました。

 最終的には条約の締結には時間の猶予が必要だったのですが、この時の両国の相互訪問が、お互いの信頼関係の樹立に大きく役立ったようです。

 その、信頼関係の樹立を確固たるものにしたのが、「鉄の棒」だったのです。

 「その国」とは当時のオスマン・トルコ、今のトルコ共和国です。

 「トルコ?」
 
 どうして、トルコが、という神田君の顔が思い浮かびます。

 「ふふ、図星だな」神田は苦笑いした。

 その理由を説明する前に、私がご奉仕させて頂いている八頭神社(はっとうじんじゃ)様についてお話しておきます。

 「八頭神社(はっとうじんじゃ)が何の関係があるんだろう」と神田は思った。
 しかし、この数分後には、神田は、八頭神社(はっとうじんじゃ)こそは鉄の棒とトルコを結びつける重要な神社であることを知り、そして、今までの、全ての謎を解く手掛かりは、この八頭神社(はっとうじんじゃ)にあることに歴史の因縁を感じ、体が震えることになる。

 この前、廿日市駅前の「おとみ」でいろいろと推理をした中で、このことを言いかけたままになっていました。確信が持てなかったのです。でも、今は、確信を持ってお話できます。
 私は、八頭神社(はっとうじんじゃ)の起源は、その字から、八つの頭、つまり、八岐大蛇(やまたのおろち)にあるのではないかと考えていました。つまり、「八頭蛇(はとうじゃ)」ではないかと。

 神田は、高見刑事と八頭神社を捜している時、地元の人は「はっとうしゃさん」と呼んでいたことを思い出した。

 実は、逆だったのです。

まず最初に「はっとうしゃ」があって、それが「八頭蛇(はっとうじゃ)」になり、やがて「八岐大蛇(やまたのおろち)」伝説が生まれたのです。

 「はっとうしゃ」と「八岐大蛇(やまたのおろち)」の間に共通するものに気が付いた時、私は、真空の暗闇に吸い込まれていくような、そんな感覚に捉(とら)われました。

 八頭神社を親しみを込めて「はっとうしゃ」と呼んだのではなく、最初から「はっとうしゃ」だったのです。

 神田は、
 「どういう意味だろう」と思った。

 熱田神宮に祀(まつ)られていた鉄の棒が、明治になって、オスマン・トルコに贈られることになった経緯(いきさつ)には数千年の歴史の因縁があったのです。
 
 私は、トルコと聞いて、喉につかえていたものがスッキリと取れました。
 「はっとうしゃ」は「ハットゥシャ」だったのです。「ハットゥシャ」は古代ヒッタイト帝国の首都の名前です。
 ご存知でしょうか?ヒッタイト帝国は人類で最初に鉄を作り出した国です。

「鉄!!」

 現代の日本人の祖先がこの日本列島にやって来る以前に、縄文人と言われる集団を筆頭に、何度かに分けて民族の集団がやってきましたが、それらの中に、製鉄技術を持った民族の一団がいました。
 私は、その集団こそは、何千年もかけてこの日本にやって来たヒッタイト人の末裔(まつえい)だと思います。こんなことを言うと、神田君は、御伽噺(おとぎばなし)のように思うかもしれませんね。
 でも、その証拠は中国にも朝鮮半島にも、そしてこの日本にもあるのです。詳しいことは、今度お会いした時にお話しますが、今日は簡単にそのことをお話します。

 日本の歴史を陰で支えてきた渡来人の一団に秦(はた)氏がいます。今では、秦(はた)、羽田(はだ)、畑、波田、八田(はった)、服部(はっとり)などという名前に変わっていますが、この人達のご先祖様は秦(はた)氏の末裔(まつえい)だといえます。 
 元首相の羽田孜(はたつとむ)さんや、篳篥(ひちりき)の奏者の東儀秀樹(とうぎひでき)さんも秦氏の子孫です。服部半蔵(はっとりはんぞう)率いる伊賀の忍者集団もそうです。

 羽田さんは、日本徐福会(にほんじょふくかい)の名誉会長でもあります。ご存知かどうか、私の住んでいる地域は、昔、徐福さんが数千人を引き連れて中国からやってきて居を構えた所でもあるんですよ。

 神田は、富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)の宮司が言っていた富士文献のことを思い出した。
 
 徐福さんのことは、中国の『史記』にも書かれています。1982年、中国の江蘇省連雲港市(こうそしょうれんうんこうし)で徐福村が発見され、徐福が実在の人物として学術研究会で発表されるようになりました。徐福村には祠(ほこら)も再建され、その内部には東方を向いた、りりしい徐福の座像がまつられているそうです。

 私は、秦氏一族と徐福さん一族は同じ一族だと考えています。その違いは、日本へ渡ってきた経路によるものではないかと思っているのです。秦氏一族は朝鮮半島経由で、徐福さん一族は船で中国から直接この日本へ渡ってきたのだろうと思います。

 秦氏と徐福さんが連れてきた集団は、先端技術を持ったハイテク集団でした。
 その先端技術の中のひとつが、製鉄技術や、製糸技術です。機織(はたおり)のハタから秦(はた)氏と呼ばれるようになったとも言われるくらいです。
 ちなみに、富士山頂の富士山本宮浅間大社奥宮の御祭神の木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと)は火の神、水の神であると共に、機織(はたおり)の神でもあります。

 ここで疑問が残ります。秦(しん)と書いて何故秦(はた)と読ませるのか。

 ところで、神田君にはご親戚はたくさんいらっしゃいますか?

 神田は、
 「また、何を言い出すんだろう」と思った。

 叔父さんや、叔母さんから電話がかかってきて、その電話を取り次ぐのに、「神田から電話」とは言わないでしょう。それだと、どの叔父さんか、どの叔母さんか分からないですからね。

 おそらく、その叔父さんが住んでいらっしゃる地名を言うのじゃないかしら。例えば「神戸から電話」と言えば、それだけでどの叔父かわかるでしょう。それは昔からそうです。
 ここに、秦(しん)を秦(はた)と読ませる秘密が隠されているのです。
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第36話 先住民族の末裔(まつえい)の弁慶が無念のうちにこの世を去った [ミステリー小説]

猿信仰

 神田(かみた)は、今こうして高見刑事に話しながら、先人の深い情念にある種の感動を覚えた。

 「ま、宮島っていえば鹿と猿だからね」と高見刑事は冗談めかして言って、思い出したように、
 「だけど、宮島の猿は小豆島(しょうどしま)から連れてきたって聞きましたけど?」と、付け加えた。
 「そうです。よくご存知ですね。明治の頃は野生の猿がいたらしいですけど、それは楊枝屋(ようじや)さんのペットだったようです。でも、もっと昔には野生の猿がいてもおかしくはないでしょうけど」神田は、以前、宮島町史を編集する時に調べたことを思い出した。

 「それに、日本には猿信仰というのがありましてね、猿は神様だとして信仰されて・・・」とここまで言って神田は、
 「そうかー」と、あることを思い出して、椅子の背もたれに体を預けた。
 「どうしました?」高見刑事はびっくりして神田の顔を見た。
 「猿が水先案内人っだってことは、魏志倭人伝(ぎしわじんでん)にも書いてあったことを思い出したんです」と、神田は目を見開き、声高に言った

 「魏志倭人伝に?」高見刑事は、また、難しい話になってきたなという表情を浮かべた。
 「ええ。中国に船で行く時に縁起をかついで、髪はボサボサ、体は垢(あか)だらけ、肉も食べない、そんな人間をひとりだけ連れて行ったようなんです」
 「へー、何のために?」
 「海が荒れないようにということで、その男を祀(まつ)ったようです。持衰(じさい)というんですがね」
 「へー。そりゃ、まるで猿だな」
 「でしょ!私も、その表現から猿を想像しましたよ」
 「猿は海の神様でもあったんじゃないかなぁ」と神田は腕組みをした。この考えを咲姫(さき)ならどう思うだろうか、と、ふと思った。

 高見刑事は、
 「そうすると、確かに話がスムースに繋(つな)がりますね」と、今までの話を頭の中で思い浮かべ、
 「宮島には猿が居て、猿田彦が居て、天狗が居て、烏(からす)が居て、それらは全てが水先案内人だということになる」と、自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。

 「それらは、弁慶に繋がってくる。つまり、宮島には弥生人以前の先住日本人の痕跡が色濃く残っているわけですよ」神田も、咲姫(さき)の考えが正しいことを改めて感じた。

 「うーん」と高見刑事は、唸(うな)り、
 「で、それと、例の鉄の棒はどういう関係が?」と、神田に尋ねた。
 


 「弁慶は、その先住民族の末裔(まつえい)だったんでしょう。その弁慶が無念のうちにこの世を去ったわけですから、頼朝が恐れていた弁慶の魂を封じ込めるには、弁慶の先祖が祀(まつ)られている宮島が相応(ふさわ)しい、と大江広元(おおえのひろもと)は考えたんでしょうね」神田は、咲姫(さき)が言った、出雲大社や宇佐神宮の四拍手(しはくしゅ、よはくしゅ)の件を思い出した。

 「木野花(このはな)さんの考えだと、お墓や、神社は、亡くなった人に、あなたは亡くなったんですよ、だからもうこの世に出ないでくださいね、とその魂を閉じ込めるという意味がある、ということです」そう言って、コーヒーカップに口をつけた。

 「なーるほど。それには同感しますね。確かに、祟(たた)りなんていうのは、だいたいのところ、お墓参りをしたり、神社にお参りすると、解決しますからね」高見刑事は意外に真面目な表情でそう応えた。

 「へー、高見さんから、祟り、なんていう言葉が出てくるとは思いませんでしたよ」
 神田がそう言うと、高見刑事はいくぶん照れながら、
 「いや、いや、私はこう見えても、結構信心深いんですよ。ははは」と笑った。 
 
 「ところで、その後、中国大使館の動きはどうなんですか?何か情報は?」神田は声を低めて聞いた。
 「いや、例の、ここにも来た例の三人組は富士山頂から下りて、すぐに中国へ帰ったようですが、そこまでは警察庁から聞きましたが、その後の動きは何も聞いていません」高見刑事はそう言うとおいしそうにコーヒーを一口飲んだ。

 神田は、
 「と言うことは、連中、三本目の鉄の棒はあきらめたのか、それとも必要ないのか」と言うと、ふと思いついたように、
 「あるいは、三本目は、もう日本にはなく、そのことを知っているので、さっさと引き上げたのか」と、ひょっとすると、そうなのかもしれないな、という気がした。

 「しかし、木野花さんの推理では、三本目の鉄の棒は熱田神宮にあるんでしょ?・・・」と、高見刑事は言うと、
 「おーっと、だめですよ、神田さん。さっきも言ったばかりでしょ。この一件にはもう手を出さないで下さいよ」と、手帳を背広のうちポケットに納めながら、左手の人差し指を神田に向けた。

 神田は苦笑いしながら、
 「わかっています。ただ、この件には、なんだか、個人的にも関わりが出てきたようなので」と、天井を見上げた。
 「個人的な関わり?何ですか、それは?」眉を寄せて高見刑事は聞いた。

 「いや、まだはっきりとは分からないんですが、木野花(このはな)さんが言うには、この鉄の棒の一件と、私の学生時代の先輩が何らかの形で関わっているんじゃないかと言うんですよ」そう言いながら頭の後で両手を組んだ。
 「まさか、そんなことは・・・」ないでしょう、という言葉を、高見刑事は、飲み込んだ。
 「とは思うんですがね。なにしろ、彼女の言うことは・・・」と神田が言い終わらないうちに、高見刑事は、
 「結構当たってますからね」そう言うと、真剣な顔になった。

 そして、2005年も終わりかけた頃、咲姫から驚くべき報せがもたらされた。
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第35話 毘沙門天が深いところで、アイヌ民族のような先住日本人の代表である猿田彦に繋がっている [ミステリー小説]

先住日本人

 神田(かみた)は、頭から熱いシャワーを浴びながら、足元の排水口へ流れ去る湯の流れを見つめていた。その先の暗い闇の中に体ごと吸い込まれるような錯覚にとらわれ背中が冷たくなるのを感じた。

 シャワーを浴び終えて、宮島観光推進協会の事務所へ行く途中、高見刑事から電話があった。

 「おはようございます。高見さん、早いですね」
 「ええ、木野花(このはな)さんたちは今頃は広島の平和資料館だと思いますよ・・・はい、祈念館(きねんかん)は木野花(このはな)さんも見学したことがないって言っていましたから、そちらも見学して、午後から静岡に帰る予定みたいです」
 「はい?お昼前ですか?いますよ。ちょうど良かった。私も高見さんに報告しなきゃいけないことがあるんですよ・・・それは、・・・ちょっとややこしい話なので、こちらでゆっくりと・・・で、何か?・・・はい。じゃあ、お待ちしています」

 高見刑事の声は何だか沈んでいた。どうしたんだろう?

 11時を過ぎた頃、高見刑事が事務所に姿を現した。
 白髪頭に手をやりながら、
 「いや、いや、参りましたよ」そう言って、、ソファーのいつもの場所に腰掛けた。
 「なんですか?」神田は事務椅子に腰掛けたままクルッと向きを変えた。
 高見刑事は
 「いやぁ、警察庁から今回の件は手を出すなって、お達しですよ」と、頭を2、3度掻いた。
 「へー、いったいどうして?」
 「さあ。もっともこの一件は例の中国大使館が口を出してからは私たちの手からは離れているんですがね」高見刑事はそう言いながら上着のボタンを外した。
 「まあ、そうですが、警察庁から、再度言ってきたってことは何かありますね、これは」神田は回転椅子を、ギイ、ギイと左右に回しながら言った。
 「だから、神田さん。神田さんも、もうこの件からは手を引いてください。お願いしますね」高見刑事は背を起こし、神田の顔を覗(のぞ)き込むように言った。

 神田はニコリと笑って、
 「分かっていますよ。私も別に犯人探しをしているわけじゃありませんからね」と、椅子を揺らしながら言った。そして、
 「ただ、三本目の鉄の棒の隠し場所が分かったんですけど、どうしましょう?」と、高見刑事の反応を窺(うかが)うように言った。
 高見刑事は、
 「え?分かった?」そう言って、目を見開いた。
 「どこですか、それは?」高見刑事は身を乗り出した。
 「熱田神宮(あつたじんぐう)に隠されている可能性が非常に高いんです」神田も体を前へ倒し、両肘(りょうひじ)を両膝(りょうひざ)の上に乗せて前かがみになった。

 高見刑事は、背広のポケットから手帳とボールペンを取り出し、
 「熱田神宮って、あの名古屋の?」と確認した。

 「ええ、どうやら、鉄の棒そのものの意味は、源頼朝の日本支配を確立するためだったようなんです」ここまで言って、
 「高見さん、もうメモの必要はないでしょう」と言うと、
 「いやいや、これは習慣でしてね」と、ボールペンの芯を、カチッ、と引っ込め、苦笑いを浮かべた。

 高見刑事は、
 「なんだかよく分かりませんが・・・」と怪訝(けげん)そうな表情を浮かべ、
 「で、どうして三本目の鉄の棒が熱田神宮にあると?」
 「頼朝は、日本を支配するためには、山、海、そして里、これらを支配下に治めることが必要になると考えたわけです」神田は咲姫(さき)の推理であることをことわってから説明を始めた。

 「なるほど」
 「で、富士山と宮島に鉄の棒を封印し、もう一か所、最も頼朝に関わりのあるのが熱田神宮なんです。なにしろ、頼朝の母親は熱田神宮の神官の娘ですから」
 「へー」
 「それに、日本三大宮司は富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)の宮司と厳島神社の宮司、そして熱田神宮の宮司なんですよ」
 「へー」
 「そして、日本の支配者の証(あかし)である三種の神器(さんしゅのじんぎ)の・・・」ここまで言うと、高見は顔を上げ、
 「銅鏡(どうきょう)、・・・勾玉(まがたま)、・・・草薙の剣(くさなぎのつるぎ)ですね」とゆっくりと言った。
 「そう。良くご存知ですね」
 「これくらいはね」高見は右手のボールペンで白髪頭を掻いた。

 「鏡は海の支配、勾玉(まがたま)は山の支配、そして草薙(くさなぎ)の剣(つるぎ)は里の支配を象徴するものだ、と言うのが木野花(このはな)さんの推理です」
 「そして、草薙の剣は現在、熱田神宮の祭神になっているんです」

 「うーん。なるほどねぇ」
 「さらに、この三つの神社の神使(しんし)は・・・」
 高見はその言葉を継いで、
 「たしか宮島の神使は烏(からす)でしたね」と言うと、神田は、
 「そうです。そして、富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)の神使は猿、熱田神宮の神使は鷺(さぎ)。これらは皆、水先案内人の役目を果たす動物なんですよ」と言いながら、改めて咲姫の推理に感心した。

 「こいつは驚いたな」高見刑事は腕組みをして目を閉じた。

 「高見さん、驚くのはまだ早いですよ」神田はにこりと笑った。
 「え?まだ何かあるんですか?」高見刑事は腕組みをほどいて神田を見た。
 「三本の鉄の棒の中には矢尻が封印されていたでしょ?」
 「ええ」
 「あれは、毛利元就の三本の矢の教えの元になった矢なんですよ」
 「まさか」高見は、信じられないと言う表情を浮かべ、小さな声でつぶやいた。

 「源頼朝の腹心に大江広元(おおえのひろもと)と言う人物がいて、この人がそもそもこの三本の矢を鉄の棒に封じ込めて宮島、富士山、熱田神宮に祀(まつ)ることを進言した張本人なんです」神田は回転椅子の背もたれに背中を預けた。
 「へー、それが三本の矢の教えと何か関わりが?」高見刑事は、さらに不思議そうな顔をした。
 「彼は毛利元就の祖先になる人物です。そのことが形を変え毛利家代々へ伝わったものだと思われます」
 「へー」高見刑事は語尾を長く伸ばし、
 「しかし、一体何のためにそんなことを?その矢っていうのに何か因縁(いんねん)でも?」と、尋ねた。
 「その矢は、弁慶の体を射た矢なんです」神田は、高見刑事の反応を楽しむかのようにニコリと笑いながら言った。
 「あの弁慶の立ち往生の・・・時の?」 
 「そうです。義経の首と、弁慶の命を奪った矢の2点セットを頼朝に見せる予定だったのですが、義経の首は腐敗が激しくて、頼朝が首実検をする前に処分されてしまって・・・」神田(かみた)はそう言いながら立ち上がり、
 「コーヒー?」と聞いた。高見刑事は軽く頭を下げ、
 「あーあ、それは聞いたことがありますよ」と応えた。

 「それで、まだ義経が生きているんじゃないかと不安におののき政(まつりごと)に専念できない頼朝を見て心配した大江広元(おおえのひろもと)が、義経に常に付き添い、分身ともいえる弁慶の命を奪った矢を封じ込めることによって義経と弁慶の怨霊(おんりょう)を閉じ込めようとした、というのが、あの三本の鉄の棒に込められた秘密ではないかと・・・」サーバーのところで振り返って高見刑事を見た。

 「うーん・・・」高見刑事は目を閉じて両手を頭の後で組んだ。
 神田は、
 「で、その弁慶は義経のいわば水先案内人だった訳でしょ?」と念を押し、さらに続けた。
 「つまり、弁慶は、天孫降臨(てんそんこうりん)の時の猿田彦命(さるたひこの みこと)と同じ役目を果たしているんですよ」こう言って、サーバーからポットを引き出してコーヒーをカップに注いだ。

 「ここ宮島には猿田彦命(さるたひこのみこと)をお祀(まつ)りしている神社が多くて、さらに、水先案内人の役目を担った神様を祀った神社も多いんです」こう言いながら、カップを高見刑事の前のテーブルに置いた。

 「今朝、弥山の本堂で気がついたんですが、像はないものの、弥山の本堂に祀られている毘沙門天(びしゃもんてん)こそは猿田彦命じゃないかってね」
 「毘沙門天が猿田彦と同一だってことですか?」と、高見刑事はいくぶん声を低め、確認するように言った。
 神田は自信を込めた声で、
 「そうです。もともと毘沙門天は北からの侵入者を防ぐという役割があるんですが、そこから北斗七星や北極星との関わりも深いんです」
 「ほう」
 「北斗七星や北極星を大事にしている人達の代表的な職業の人達は誰かというと・・・」
 「船乗りかな」高見刑事は神田の言葉を遮(さえぎ)って言った。
 「そうです。大海原(おおうなばら)で唯一目標となるのは北斗七星や北極星なわけで、水先案内人にとっての神様は毘沙門天じゃないかと思いついたんです」

 「なるほどねぇ」
 神田は、コーヒーを一口飲み、
 「上杉謙信は自分を毘沙門天の生まれ変わりだと言っていたらしいけど、まさかそこまでは思わなかったでしょうね」と、言い、さらに、
 「イラクに派遣されている自衛隊の装甲車の車体に毘沙門天の、毘、の字が書いてあるのは北を守る北海道の部隊だとか、謙信のように戦(いくさ)の神様だからという理由でしょうけど、その毘沙門天が深いところで、アイヌ民族のような先住日本人の代表である猿田彦に繋がっている、というのは北海道の部隊の装甲車だけに面白いですね。」と続けた。

 「つまり、ここ宮島は、猿田彦だらけってことになるわけか」高見刑事は、ボールペンで白髪頭を、ポリポリと掻いた。
 「そういうことになりますね」
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第34話 ヒマラヤの北方を守護する毘沙門天(びしゃもんてん)が宮島に祀られているのはどういう意味があるのだろうか? [ミステリー小説]

毘沙門天(びしゃもんてん)

 長く深い夜であった。廿日市駅前の精進料理屋「おとみ」で、主人の山田鉄男の祖先が出雲(いずも)の出身だと分かってから三本の矢にまつわる秘密が歴史の闇の中から浮かび上がってきた。

 いや、歴史の闇の中からその秘密をすくい上げたのは、八頭神社(はっとうじんじゃ)の女性宮司の木野花咲姫(このはなさくひめ)であった。

 咲姫(さき)は、鉄の棒の封印は、源頼朝(みなもとのよりとも)と、その懐刀(ふところがたな)であった大江広元(おおえのひろもと)が日本を支配するための策略であることを見抜いた。
 そのことが、後の毛利元就の三本の矢の教えの元になっていることまでもが明らかになった。

 さらに、咲姫は、宮島の赤、富士山の白から秘密の糸を手繰(たぐ)り寄せ、ついに、三本目の鉄の棒は名古屋の熱田神宮に隠されているというところまで解明してみせた。

 しかも、咲姫は、その鉄の棒には、出雲にまつわる様々な歴史が関係していることまで証明してみせたではないか。

 そして、今は、咲姫(さき)によると、咲姫が宮司をしている八頭神社(はっとうじんじゃ)と八岐大蛇(やまたのおろち)、弁慶と天狗、烏(からす)、猿の関係、これらの間には何らかの関係があると言っているのだ。



 居酒屋「おとみ」で咲姫とキャシーに会った翌朝も、神田(かみた)は、宮島の東の尾根、博打尾(ばくちお)の尾根筋を弥山に向かって登った。

 早朝の太陽はまだ低く、海面に反射して、江田島に濃い陰影を与えている。
ここを登るたびに、あの大男のことを思い出す。猛烈な風と雨の中であの男に対峙した時、神田は何十年ぶりかで闘争心が蘇(よみがえ)った。
 しかし、一方では、神田にはあの時、あの男に勝つ自信はなかった。それを見透かしたかのようにあの男は唇の端を上げて嗤(わら)った。それが神田には許せなかった。その男がでなく、自分自身が許せなかった。

 出来ることなら、もう一度あの男に会って闘ってみたい。神田の中にメラメラと武道家の炎が燃え上がってきた。その日のために、あれ以来、こうして博打尾(ばくちお)尾根を登っているのだ。

 獅子岩から弥山に向かうなだらかな登山道を走った。若い僧が、弥山本堂の境内(けいだい)を掃き清めていた。

 神田は本堂の中に何気なく目をやり、そして、
 「あっ」と小さく声を上げ、すーっ、と、汗がひくのを感じた。

 「どうかされましたか?」境内を清めていた若い僧が不思議そうな顔をして神田を見た。
 「いや、なんでもありません」そう言いながら、昨日の昼、「清盛うどん」で咲姫(さき)と交わした会話を思い出した。


 「宮島は学問上、貴重な島だと思うよ。ペトログラフの古代信仰からヒンズー教、山岳信仰、仏教、神道。神社の配置からも明らかに北斗信仰(ほくとしんこう)、妙見信仰(みょうけんしんこう)も取り入れられていることが分かるしね。弥山(みせん)頂上と厳島神社の大鳥居をつなぐ線は南北方向なんだよ」という神田の意見に咲姫は、「弥山本堂(みせんほんどう)には毘沙門天(びしゃもんてん)が祀(まつ)られていたわね」と応(こた)えた。
 それに対して、「ああ、毘沙門天は北の守り神だからね」と、その時は、簡単に応じたのだ。
 しかし、今、神田は、弥山の本堂に毘沙門天が祀られているのにはさらに深い意味があることに気が付いた。

 神田は、弥山(みせん)頂上から吹き降ろす朝の冷たい風に、体をすくい上げられた感覚に捉われた。
 


 自宅に帰って、シャワーを浴びながら、神田は、宮島の長い歴史に思いを巡らせた。
 そして、改めて、ここ宮島は、天孫降臨以前から人々の崇拝(すうはい)と畏敬(いけい)の念を集めた聖なる島であることを実感した。
 
 神田は思った。
 須弥山(しゅみせん)に喩(たと)えられ、ヒマラヤの北方を守護する毘沙門天(びしゃもんてん)が宮島に祀られているのはどういう意味があるのだろうか?

 咲姫(さき)は「私たちはネパールへ行かなければならない」と言った。

 そのネパールこそは、天空に聳(そび)えるヒマラヤ山脈を擁する王国ではないか。そのヒマラヤの北を守護する毘沙門天は、何から守護をしようとしているのか。ヒマラヤの北といえばチベットを自治区としている中国だ。中国?・・・あの謎の中国人たちは何のために鉄の棒を手に入れようとしているのか?

 神田は、迷い込んではいけない深い闇の中に入り込んで行く気がしてきた。 
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第33話 「私たちは、ネパールへ行かなきゃ行けないのよ」 [ミステリー小説]

八頭神社(はっとうじんじゃ)

 「咲姫(さき)ちゃん、この話、どう繋(つな)がっていくんだ?もう、これ以上の詮索(せんさく)は高見刑事に任せたほうが良くはないか?」神田は目に見えない何かに絡(から)みつかれている様な気がしてきた。

 咲姫は、両手で包んでいた湯飲みを口元にもって行き一呼吸おいて、一口飲んだ。そして、
 「私も少し怖くなってきたわ。でも、もう、だめね」と、きっぱりと言って、唇を横一文字に結んだ。

 「だめ?どうして?」
 「山口さんよ」
 「山口さん?どういうことだい」日本拳法部の山口さんが何の関係があるというのだろう。一体、咲姫は、何を言い出すんだろうと思った。

 「山口さんが私たちを呼んでいるのかもしれないわ」と、目を細めて、小さくつぶやくように言った。
 「何を言っているんだい、咲姫ちゃん。山口さんが俺たちをどこへ呼んでるっていうんだい?」神田は困惑した。

 「ネパールよ」そう言って、キャシーをチラッと見、そして、神田のほうを向いた。
 「私たちは、ネパールへ行かなきゃ行けないのよ」咲姫が、言葉に力を込めたのが分かった。
 


 咲姫は、カウンターで鉄と話し込んでいるキャシーのほうを見て、
 「キャシーは来週には医療ボランティアの一員としてネパールに向かう予定になってるの」と、やや小さめの声で言った。
 神田もカウンターで話し込んでいるキャシーのほうを見た。
 「ああ、そう言ってたね」

 「キャシーは、まだ山口さんの身に何が起こったのか言ってくれていないわ。けど、10年前に何かが山口さんの身に起こったのよ。そして今も山口さんの亡骸(なきがら)はネパールの地にあるのよ」咲姫は声を落として言った。

 「待ってくれよ、咲姫ちゃん。その・・・、今まで話していた弁慶や義経、毛利元就(もうりもとなり)の三本の矢の教え、それに八岐大蛇(やまたのおろち)の話・・・」神田はここまで言って、大きく息を吸い込み、
 「それに、もともとの三本の鉄の棒の窃盗事件がどうして山口さんやネパールと関係があるんだい?」と、言うと、
 「それと、さっき言いかけた弁慶の祖先って、咲姫(さき)ちゃんは何を見つけたんだい?」神田は不安に駆られながらも、これまでのモヤモヤとした霧を晴らしたいという好奇心と苛立(いらだ)ちでだんだんと、咲姫を問い詰める口調になるのが自分でも分かった。


 咲姫(さき)は、神田(かみた)の問いかけに静かに答えた。
「それは私の頭の中で整理して、追々説明できると思うけど・・・」
 
 神田は、咲姫(さき)の頭の中で、何かと何かを繋(つな)げようとしているのを感じた。いや、もう繋ぎ終わっているのかもしれない。

 「今回の件はね、神田君。私のお仕(つか)えしている八頭神社(はっとうじんじゃ)様が私に与えられた使命だと思うのよ。私の運命だとつくづく感じるのよ」咲姫は、ジッと正面の壁を見つめた。そして、神田のほうを向いて、
 「八頭神社様は、八つの頭って書くでしょ?私は昔から思っていたの。どうして八頭神社(はっとうじんじゃ)って名前なのか。ひょっとして八岐大蛇(やまたのおろち)と関係があるのじゃないかと、ずーっと思っていたの」咲姫はこういうと、思い切ったように、
 「八頭神社(はっとうじんじゃ)ではなく、八頭蛇(はっとうじゃ)じゃないかってね」
 神田は、咲姫(さき)のやや青白くなった顔を静かに見つめた。

 咲姫は腕時計に目をやり、
 「あら、大変、もうこんな時間。すっかり話し込んじゃって、この続きはまたね」
 「また、って、いつだい?」神田の口調は自然に不服げになった。

 「連絡するわ。ちょっと熱田神宮の鉄の棒の件を調べて、その報告もしなきゃいけないでしょ?」と、にこり、と白い歯を見せて言った。
 「え!?やってくれるかい?助かるよ。咲姫ちゃんが調べてくれるなら万々歳(ばんばんざい)だよ」

 「あら、神田君はさっき、もう手をひいたほうがいい、とか言わなかった?」
 「しかし、まあ、ここまできたら・・・」神田は苦笑いをした。 
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第32話 宮島七浦の神社に祀られている神はどの神も予言や道案内に関する神だったんだ [ミステリー小説]

猿田彦命(さるたひこのみこと)

「神田君、もうひとつあるのよ」と咲姫(さき)はいたずらっぽく言った。
 「天狗はね、猿田彦(さるたひこ)だってことよ」咲姫がそう言うと、神田も大きくうなづいて、
 「そうだね。俺もそれは感じていたよ。猿田彦は天照大御神(あまてるおおみのかみ)が孫の邇邇芸命(ににぎのみこと)を日本へ派遣した時に邇邇芸命(ににぎのみこと)の案内役を務めた神様だろ」

 「身長すこぶる高く、顔赤くして鼻高く、目は大きく、その輝くさまは鬼灯(ほおずき)の如くであった、というんだからね」と昔読んだ古事記の一節を思い出し、言った。そう言いながら、富士山本宮浅間神社(ふじさんほんぐうせんげんじんじゃ)の神使(しんし)は猿だったことを思い出し、これらは本当に偶然として片付けていいものだろうかと思い始めていた。

 「その功績もあって、道祖神(どうそしん)として交通安全の神様として今でも猿田彦命(さるたひこのみこと)を祀(まつ)っている神社はたくさんあるからね」神田はそう言って、「あっ」と小さな声を上げた。

 「どうしたの?」咲姫は、おどろいて神田を見た。
 「いや、少し前に宮島の神社の由来や祭神をまとめるために島内の神社を調べたんだけど」と、神田は5年前のことを思い出した。
 「あら、そうなの」咲姫は湯飲みを両手で包んだまま顔を上げた。
 「でね、天照大御神(あまてるおおみのかみ)の子供や、宗像三女神(むなかたさんじょしん)の市杵嶋姫(いちきしまひめ)や、田心姫(たごりひめ)、湍津姫(たぎつひめ)がお祀りしてある神社が多いのは分かるんだけど、猿田彦命(さるたひこのみこと)が祀られている神社がやたら多いのには驚いたんだよ」
 咲姫はじっと神田の話を聞いている。

 「それにね、宮島七浦の神社に祀られている神はどの神も予言や道案内に関する神だったんだ」
 咲姫(さき)は、
 「ああ、それはそうでしょうね。烏(からす)が厳島神社の創建場所を捜すために皆の先頭で案内をしたわけでしょうからね」と、当然のような顔をして言った。
 「綿津見三神(わたつみさんしん)や住吉三神(すみよしさんしん)の神様でしょ?」
 「よく分かるね」と、言いながらも、咲姫(さき)がこうしたことに詳しいのにはもう驚かなくなっていた。

 「どの神様も航海の安全や無事を祈るための神様、つまり海の水先案内人、パイロット、でしょ。猿田彦命(さるたひこのみこと)と同一の神と考えてもいいんじゃないの」と言い、
 「塩土老翁(しおつちのろうおきな)がお祀りされている神社もあるのじゃない?」と、神田に聞いた。
 神田は、咲姫の知識の豊富さに呆れながら、
 「確かに、塩土老翁(しおつちのろうおきな)も包みが浦神社にお祀りされているよ」と言った。
 「でしょうね。塩土老翁(しおつちのろうおきな・しおつちおじのかみ)は、シオツチ、つまり塩の道(ち)を知っている神様ということだし、船の先頭を飛ぶ鴎(かもめ)でもあるのよ」

 「その鴎の白と、塩の色、海、というイメージから塩土老翁(しおつちのろうおきな)が生まれたのだと思うわ」と言って、
 「つまり、白い鳥なら鷺(さぎ)でもいいのよ」と付け加えた。

 「知ってる?熱田神宮の神使は鷺(さぎ)だってこと?」と、神田の反応を見るように小首をかしげて神田の顔を見た。
 「えっ!?」神田はやはり驚かざるを得なかった。
 「烏(からす)だという説もあるけど、どちらにしても同じ事ね。御鳥喰式(おとぐいじき)の行事も行われているようだし、烏と関係があるのは間違いないわ」と神田を見つめた。

 「どう?厳島神社の神使(しんし)が烏(からす)、富士山本宮浅間神社の神使が猿。熱田神宮の神使(しんし)が鷺(さぎ)。どの神使も、道を案内する先導者だってことに気がついた?」と、咲姫はゆっくりと、しかし、はっきりとした口調で言った。
 
 「これは・・・、やはり偶然とは思えないな」神田はその咲姫の問いかけには直接答えず、自分自身に言い聞かせるかのようにつぶやき、
 「毛利元就(もうりもとなり)の祖先、大江広元(おおえのひろもと)って男は相当な知恵者だね」と咲姫の同意を求めた。
 しかし、咲姫は、
 「広元だけの策じゃないかもしれないわよ。それに、これだけの仕掛けを実行するには闇の勢力も絡んでいるかも」と、含みを持たせた言い方で返した。
 「闇の勢力?」神田は聞き返した。
 「そう、修験者(しゅげんじゃ)もそうだけど、忍者集団の風魔(ふうま)とか、非人の頭領の弾左衛門(だんざえもん)とかね。どっちも北条氏と関わりが深いものね」とニコッと笑って付け加えた。
 「おい、おい、そこまで行くと話しがややこしくなるよ」神田は苦笑いをしながらて口元をゆがめた。
 「そうね。まずは猿田彦命(さるたひこのみこと)ね」と、咲姫(さき)も肩をすくめた。

 神田は、
 「猿田彦命(さるたひこのみこと)ほどその容貌について詳しく書かれている神様も少ないよね」と言い、頭の中でいろいろな神様についての記述を思い出した。
 そして、
 「たぶん、最初の印象が強烈だったんだろうな」と言うと、
 「朝鮮半島から渡ってきた弥生人(やよいじん)がそれまで会ったことのない、つまり、彼らとは違う容姿だったんでしょうね」と、咲姫はうなずいた。

 神田は、その咲姫の言葉に、
 「でもそのこと自体は、邇邇芸命(ににぎのみこと)が、つまり、朝鮮半島から今の天皇の祖先が渡ってきた時には、彼らとはかけ離れた容貌をしている人間が、既に日本に居たってことになるよね」と言うと、
 咲姫は、すぐに、
 「そう、弁慶の祖先がね」と応えた。

 「弁慶の祖先?」
 「これからが大事なところよ。神田君」
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第40話 ヒマラヤを越えた子の1人 [ミステリー小説]

薬草

 「キキャーも多良さんに背負われてヒマラヤを越えた子の1人だよね」ジテンは、またひとつモモをつまんで多良を見た。
 「そうだなー。もう20年以上、いや、30年近く前になるのぉ」多良は、ちょっと、遠くを見るように目を細めた。
 「あの時も大きい子じゃったが、あんなに大きな男になるとはな」と、いかにも感慨深そうにつぶやいた。
 そして、
 「しかし、俺は、キキャーがお前たちの仕事を手伝うのは、あんまり感心せんのんじゃ」と、ジテンの目を見た。
 「どうしてですか?」ジテンは、多良の咎(とが)めるような目を見つめ返した。

 「せっかく助かった命を何でまた危険にさらすのか」多良はやや口を尖(とが)らせて言った。
 ジテンは、
 「多良さん。多良さんは何故平和な日本から来てわざわざあんな仕事を?」と、柔らかい光を湛(たたえ)えた目で多良を見つめて言った。
 「わからん。わからんが、植村さんのサポート隊の一員としてこっちに来た時に見た光景が忘れられなくてな」多良は、モモをつまんだまま窓のほうを向き、
 「俺たちは、ごつい登山靴、暖かいダウンジャケット、酸素ボンベ、暖かい食べ物をわんさと持ってるのに、国境を越えてきた子供達は破れた靴を履き、一枚の毛布を纏(まと)い、そして、髪の毛は凍っていた」と、まぶたを閉じた。
 「その時の多良さんと今のキキャーは同じ気持ちだよ」ジテンは優しく言った。

 「ふふん、ふーん」という鼻歌が階段のほうから聞こえてきた。そして、「トン、トン、トン」とノックの音がした。

 多良はギシギシと床を鳴らしながら、ドアのところへ行き、鉄の閂(かんぬき)を、カッチャッ、と、音を鳴らしてはずし、ドアを開けた。
 ネパールミルクティーがなみなみと注がれたガラスコップを2個のせたコップホルダーを持った少年が、開かれたドアを避けて立っていた。

 鼻歌は、少年が、「ティーを持ってきたよ」という合図なのだ。

 少年は、「ふふん、ふーん」と鼻歌を歌いながらテーブルの上にガラスコップを置こうとしたが、手を止めた。
 多良は、
 「おっと、ごめん」と言いながら。引き出しから2枚のコースターを取り出し、テーブルの上に置いた。
 少年は無表情のままコースターの上に、ゆっくりとコップを置いた。多良は10ルピーコインを3枚渡すと、少年は再び鼻歌を歌いながら、足音を立てずに帰って行った。裸足であった。

 ジテンは、右手の親指と人差し指で、チア(ネパールミルクティー)がなみなみと注(つ)がれたガラスコップの縁(ふち)をつまみ、口元に持ってゆくと、「フー」と、一息かけて、「チュッ」と一口飲み、突然、「ん!!」と言うと、
 「オー、大切な物を忘れるところでした」とチヤのコップをコースターの上に置いた。
 「なんだ?大切なこと、ゆうのは?」多良もガラスコップをつまみ上げて、「チュッ」と一口だけ啜(すす)り込み、テーブルの上に、コンッ、とコップを置いた。
 それを見たジテンは、多良のコップをコースターの上に移した。
 テーブルの上にはコップの底の丸い焦げ跡がところどころに残っている。

 「ああ、ごめん」多良はそう言うと、両手で鬘(かつら)の両端を持ってググッ、と左右に動かした。
 「で、なんだい?その大切な物ゆうのは?」多良は再び聞いた。

 「これです。これです」ジテンはそう言うと、テーブルの上の二つのコップを脇に寄せ、持って来たもうひとつの黒いビニール袋をテーブルの上に置いた。
 そして、
 「多良さんに頼みがあるんですよ」と、ビニール袋の固く括(くく)られた結び目を解いた。
 ジテンは、ビニール袋の中から新聞紙の包みを取り出し、テーブルの上に置き、包みを広げた。
 新聞に包まれていたものは、ビニールの小袋に入った木の根っこや乾燥した葉であった。
 「薬草か?」
 「そうです。特に、この根っこは滅多に手に入れることが出来ないんですよ」と、赤茶けた木の根の入ったビニール袋を多良に手渡した。
 「へー、どこで手に入れたんじゃ?」多良はジテンから受け取り、ビニール袋の中の根っこをしげしげと見た。
 それは、素人目にもかなりの年月を生き抜いてきた木の根であることが分かった。
 
 ジテンは、多良からその袋を受け取りながら、
 「それは、多良さんにも言えないですよ。ファミリーの財産ですからね」と言うと、再び、大事そうに新聞紙に包んだ。

 「ははは、まぁ、いいさ。で、これをどうしたらいいんだ?」そう言いながら、ビニール袋に小分けされた他の葉や木のチップを興味深げにひとつずつ手にとって眺めた。
 「多良(たら)さんは、明日タメールに行くんですね?」ジテンは、確認するように身を乗り出した。

 「ああ、頼んでいた登山靴の修理がそろそろ出来上がっている頃だからな」多良はそう言うと、
 「それに、久し振りに風呂にも入りたいし」と、首筋を手で撫(な)でた。
 ジテンは、笑いながら、
 「蕎麦(そば)もね」と言った。
 「そうだ。よく分かるのぉ。ははは」多良はチヤのコップを手にとって、
 「で、それをどうしたら?」と、テーブルの上のビニール袋を見た。
 「これを、ホテル・スオニガに泊まっている人に渡してもらいたいんですよ」
 「いいよ。誰に?」そう言うと、チア(ネパールティー)のコップを口元に持っていった。
 「アメリカ人の・・・」
 それを聞いて、
 「アメリカ人?俺は英語は苦手だなぁ」と、コップを口から離した。
 「大丈夫ですよ。日本語ペラペラですから」
 ジテンは笑いながら言った。
 「ペラペラ?」多良は不思議そうな顔をしてジテンを見た。
 ジテンは、
 「そうです。アメリカ人と日本人、半分、半分、ハーフですね」と、楽しそうに言った。
 「へー、なんでまた、そんな野郎に?」そう言いながら、チアをグビッ、と一口飲んだ。
 ジテンは、笑顔で、
 「野郎じゃないです。女の人ですよ」と、多良の様子を窺(うかが)うように言った。
 「女?名前は?」多良はそっけなく聞いた。
 ジテンは少し拍子抜けしたように、
 「キャシー・ハセガワといいます」と言うと、モモをひとつ摘んで口に放り込んだ。

 多良もモモをひとつ摘むと、 
 「誰なんだ、そのキャシー長谷川いうのは?」と、聞いた。
 「ドクターです」
 「ドクター?」多良は顔を少し傾けた。
 「そうです。10年前にも私の村に半年滞在して、私の村の人はもちろん、私の村から、近くの村へ出かけて病人や、けが人の治療をしてくれたことがあります。たくさんの村人の命を救ってくれた人です」ジテンの言葉には力が込められている。
 「へー、それで、彼女はこの薬草をどうしようと?」と言うと、テーブルの上に置かれた黒いビニール袋の中を覗き込んだ。

 ジテンは、真剣な顔をして、
 「村人にも手に入れられる植物や木を使って治療する方法を広めているのですよ」と言った。
 「なるほど。薬品を手に入れるのは難しいからなぁ」多良は、2、3度頷(うなづ)きながら、壁に背中をすがらせた。

 そして、壁から背を離すと、
 「よし、まかせておけ。彼女にわたしてやるから」と、ビニール袋を手前に引き寄せ、袋の口を結び始めた。

 ジテンは、喜びを顔に浮かべ、多良の手から袋を取り、自ら、袋の口を固く結び、
 「ありがとうございます。私は今夜にはここを出発しないと明日になるとバンダで動きが取れなくなりますからね」と言うと、左腕を動かし、ジャンパーの袖口をずらして時計を見た。

 「ああ、また、外出禁止令が出るらしいなー」多良は、うんざりだ、と言う顔をして窓のほうを向いた。

■「蒼き神々の行方」をご愛読頂きありがとうございます。筆者は2011年3月31日からネパールに旅立ちます。物語の続きは帰国後4月18日からUPの予定です。

■「お気に入り」「RSS」にご登録頂き引き続きご愛読下さい。

■また、ネパール滞在中の筆者の行動は日々更新します。併せてご愛読下さい。→ http://sky.ap.teacup.com/ito-biz/

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第31話 義経の案内役として先導者の役割を担(にな)っていた弁慶はまさに天狗の役割を演じていたことになる [ミステリー小説]

 女将(おかみ)がお茶を運んできた。鉄が居る土間のテーブルの上に盆を置き、湯飲みを一つずつ座敷のテーブルに置いた。

 「神田君は、弁慶、と聞いて、何を思い浮かべる?」と、再び、咲姫の謎かけが始まった。
 「そうだなー。まず、体が大きいことかなぁ」と腕組みをした。
 咲姫はさらに、
 「顔つきとか、たとえば、色のイメージでいうと何色?」とたずねた。
 「顔は、色黒で、髭(ひげ)が濃くて、どちらかと言うと日本人離れした彫りの深い顔かな。色のイメージだと、やはり黒、だろうな。衣(ころも)の黒のイメージがあるしね」と腕組みをほどいてお茶を一口飲んだ。

 「そうね。源平盛衰記(げんぺいせいすいき)にも、弁慶の姿は黒の鎧(よろい)に黒の冑(かぶと)、黒漆(くろうるし)の刀に黒羽の矢を背負っていたというふうに書かれているのよ」と、お茶の入った湯飲みを両手で包んだ。
 「へー、そうなんだ」神田は、湯のみに手を副えたまま咲姫(さき)の話に聞き入った。

 「私は、弁慶とカラスのイメージが重なってしまうのよ。どう?」
 「んーん」神田は、湯飲みから手を離し、腕組みをして、
 「確かに、そうだな」と言った。
 「常に義経の先鋒として道案内、ナビゲーターの役割を担っているのは、神武天皇(じんむてんのう)の東征の時の八咫烏(やたがらす)と同じじゃない?」咲姫はさらに説明を加えた。
 「なるほど。八咫烏(やたがらす)の八咫(やた)って大きいって言う意味だから、弁慶とピッタリ重なるな」そう言って、神田は突然、あの大男が富士山の山頂から飛び立った姿を思い出し、愕然(がくぜん)とした。
 「まさか・・・そんなことは・・・」



 宮島の弥山(みせん)からも同じようにして飛び立ったあの大男が、八咫烏(やたがらす)のイメージと、そして、弁慶のイメージと重なったのだ。

 キャシーは座敷を下りて、カウンターへ行き、鉄となにやら楽しげに話している。

 「どうしたの?」咲姫は神田のやや血の気の失せた顔を覗き込んでニコッと笑った。
 「当ててみましょうか。神田君は今、富士山頂から、中国人に追われて飛び立ったあの大男のことを思い出しているんでしょ」ズバリであった。

 考えてみると、今回の件は、あの謎の大男の出現から始まったのだ。全身を黒く塗ったあの大男は、八咫烏(やたがらす)を表わそうとしていたのだろうか?まさかそんなことはないだろう。単なる偶然の一致だろう。



 しかし、厳島神社の神殿を造営する場所も、烏(からす)の導(みちび)きによって今の場所に決められたという言い伝えは何を伝えようとしているのだろうか。今に残るお烏喰式(おとくいじき)の行事は俺たちに何を伝えようとしているのか?
 厳島神社の神使(しんし)が烏(からす)であるのには深い理由があるのではないだろうか。
 お烏喰式(おとくいじき)の烏(からす)は紀州の熊野へ帰って行くという言い伝えは、弁慶と宮島の関わりを暗に示しているとも考えられるではないか。

 「それに、弁慶にはもうひとつ、天狗のイメージもつきまとっているのよね」咲姫はさらに話を続けた。
 確かに、弁慶の大柄な体に纏(まと)った修験道の衣装や、日本人離れした顔は、鼻の高い天狗のイメージがある。

 神田は小学生のころには廿日市(はつかいち)の秋祭りを楽しみにしていた。祭りになると、同級生と連れ立って廿日市の商店街に出かけたものだ。
 その祭りの神輿(みこし)の先頭には必ず天狗の面をかぶった若者が歩いていた。そして、その天狗は、時折走り回って、周囲の見物客を金剛棒で蹴散らしていたのを覚えている。子供達は、その天狗をからかうのを楽しみにしていたものだ。

 義経の案内役として先導者の役割を担(にな)っていた弁慶はまさに天狗の役割を演じていたことになる。
 


 宮島には、その天狗(てんぐ)にまつわる言い伝えが多く残っている。神田は何年か前、「宮島町史」に載せるために、宮島の伝説の調査をしたことがある。50人を越える島の古老達から昔の行事や、わらべ歌とともに、言い伝えられてきた伝説の聞き取り調査をした。

 そして、天狗にまつわる多くの言い伝えがあることに驚いた。雪の日には、厳島神社の本殿の屋根には天狗の足跡が現れるとか、天狗は、年末になると、弥山(みせん)の頂上に松明(たいまつ)を点(とも)し、頂上からカーン、カーン、と、拍子木(ひょうしぎ)を打つというのだ。

 古老達は、幼い頃には、実際に何度もその音を聞いたことがあるという。また、ある古老は、天狗が打ち鳴らす太鼓に誘われて山に入り込んだ人を助けたことがある、と、自慢げに語ってくれた。
 


 今年(平成17年)の5月5日に消失した霊火堂の裏の岩に、天狗の顔が影になって現れているのはよく知られている。
 咲姫(さき)は、神田(かみた)の考えていることを見通したかのように、
 「キャシーと一緒に弥山(みせん)に登ったときに、三鬼堂の中にお邪魔したけど、お堂には天狗のお面がたくさん飾ってあるでしょ。あれって、宮島の象徴じゃないの?」と言った。

 「なぜ?」神田は、咲姫に自分の考えていることを覗かれているような気がした。
 「だって、さっきの弁慶と烏(からす)の話。そして、神田君も思ったでしょ?その、神田君が見たっていう大男のこと」と、強い口調で言い、さらに、
 「キャシーとJRで宮島口に着いて、桟橋に向かって歩いて、最初に気がついたのは桟橋前にある像よ」と言った。
 「像?ああ、あの桟橋前に建てられている、舞楽(ぶがく)を舞っている形の像のこと?」神田は、宮島口のロータリーにある像を思い浮かべた。
 「ええ、あの面はまるで天狗の顔じゃないの」
 「確かに、舞楽の面は昔の日本人が出会ったシルクロードの西の人間の顔を模したものだろうね」神田も常々そう思っていた。

 「そして、大聖院の参道入り口で参拝者を迎えるように立っているあの像」
 「え?」
 宮島の大聖院の入り口では烏天狗(からすてんぐ)の石像が参拝者を迎えている。
 「大聖院の入り口に立つ烏天狗(からすてんぐ)の像と宮島の入り口に立つ舞楽の像。同じじゃない?」咲姫は言った。
 


 弁慶、烏(からす)、天狗これらのイメージが見事にひとつに収束していった。
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