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第32話 宮島七浦の神社に祀られている神はどの神も予言や道案内に関する神だったんだ [ミステリー小説]

猿田彦命(さるたひこのみこと)

「神田君、もうひとつあるのよ」と咲姫(さき)はいたずらっぽく言った。
 「天狗はね、猿田彦(さるたひこ)だってことよ」咲姫がそう言うと、神田も大きくうなづいて、
 「そうだね。俺もそれは感じていたよ。猿田彦は天照大御神(あまてるおおみのかみ)が孫の邇邇芸命(ににぎのみこと)を日本へ派遣した時に邇邇芸命(ににぎのみこと)の案内役を務めた神様だろ」

 「身長すこぶる高く、顔赤くして鼻高く、目は大きく、その輝くさまは鬼灯(ほおずき)の如くであった、というんだからね」と昔読んだ古事記の一節を思い出し、言った。そう言いながら、富士山本宮浅間神社(ふじさんほんぐうせんげんじんじゃ)の神使(しんし)は猿だったことを思い出し、これらは本当に偶然として片付けていいものだろうかと思い始めていた。

 「その功績もあって、道祖神(どうそしん)として交通安全の神様として今でも猿田彦命(さるたひこのみこと)を祀(まつ)っている神社はたくさんあるからね」神田はそう言って、「あっ」と小さな声を上げた。

 「どうしたの?」咲姫は、おどろいて神田を見た。
 「いや、少し前に宮島の神社の由来や祭神をまとめるために島内の神社を調べたんだけど」と、神田は5年前のことを思い出した。
 「あら、そうなの」咲姫は湯飲みを両手で包んだまま顔を上げた。
 「でね、天照大御神(あまてるおおみのかみ)の子供や、宗像三女神(むなかたさんじょしん)の市杵嶋姫(いちきしまひめ)や、田心姫(たごりひめ)、湍津姫(たぎつひめ)がお祀りしてある神社が多いのは分かるんだけど、猿田彦命(さるたひこのみこと)が祀られている神社がやたら多いのには驚いたんだよ」
 咲姫はじっと神田の話を聞いている。

 「それにね、宮島七浦の神社に祀られている神はどの神も予言や道案内に関する神だったんだ」
 咲姫(さき)は、
 「ああ、それはそうでしょうね。烏(からす)が厳島神社の創建場所を捜すために皆の先頭で案内をしたわけでしょうからね」と、当然のような顔をして言った。
 「綿津見三神(わたつみさんしん)や住吉三神(すみよしさんしん)の神様でしょ?」
 「よく分かるね」と、言いながらも、咲姫(さき)がこうしたことに詳しいのにはもう驚かなくなっていた。

 「どの神様も航海の安全や無事を祈るための神様、つまり海の水先案内人、パイロット、でしょ。猿田彦命(さるたひこのみこと)と同一の神と考えてもいいんじゃないの」と言い、
 「塩土老翁(しおつちのろうおきな)がお祀りされている神社もあるのじゃない?」と、神田に聞いた。
 神田は、咲姫の知識の豊富さに呆れながら、
 「確かに、塩土老翁(しおつちのろうおきな)も包みが浦神社にお祀りされているよ」と言った。
 「でしょうね。塩土老翁(しおつちのろうおきな・しおつちおじのかみ)は、シオツチ、つまり塩の道(ち)を知っている神様ということだし、船の先頭を飛ぶ鴎(かもめ)でもあるのよ」

 「その鴎の白と、塩の色、海、というイメージから塩土老翁(しおつちのろうおきな)が生まれたのだと思うわ」と言って、
 「つまり、白い鳥なら鷺(さぎ)でもいいのよ」と付け加えた。

 「知ってる?熱田神宮の神使は鷺(さぎ)だってこと?」と、神田の反応を見るように小首をかしげて神田の顔を見た。
 「えっ!?」神田はやはり驚かざるを得なかった。
 「烏(からす)だという説もあるけど、どちらにしても同じ事ね。御鳥喰式(おとぐいじき)の行事も行われているようだし、烏と関係があるのは間違いないわ」と神田を見つめた。

 「どう?厳島神社の神使(しんし)が烏(からす)、富士山本宮浅間神社の神使が猿。熱田神宮の神使(しんし)が鷺(さぎ)。どの神使も、道を案内する先導者だってことに気がついた?」と、咲姫はゆっくりと、しかし、はっきりとした口調で言った。
 
 「これは・・・、やはり偶然とは思えないな」神田はその咲姫の問いかけには直接答えず、自分自身に言い聞かせるかのようにつぶやき、
 「毛利元就(もうりもとなり)の祖先、大江広元(おおえのひろもと)って男は相当な知恵者だね」と咲姫の同意を求めた。
 しかし、咲姫は、
 「広元だけの策じゃないかもしれないわよ。それに、これだけの仕掛けを実行するには闇の勢力も絡んでいるかも」と、含みを持たせた言い方で返した。
 「闇の勢力?」神田は聞き返した。
 「そう、修験者(しゅげんじゃ)もそうだけど、忍者集団の風魔(ふうま)とか、非人の頭領の弾左衛門(だんざえもん)とかね。どっちも北条氏と関わりが深いものね」とニコッと笑って付け加えた。
 「おい、おい、そこまで行くと話しがややこしくなるよ」神田は苦笑いをしながらて口元をゆがめた。
 「そうね。まずは猿田彦命(さるたひこのみこと)ね」と、咲姫(さき)も肩をすくめた。

 神田は、
 「猿田彦命(さるたひこのみこと)ほどその容貌について詳しく書かれている神様も少ないよね」と言い、頭の中でいろいろな神様についての記述を思い出した。
 そして、
 「たぶん、最初の印象が強烈だったんだろうな」と言うと、
 「朝鮮半島から渡ってきた弥生人(やよいじん)がそれまで会ったことのない、つまり、彼らとは違う容姿だったんでしょうね」と、咲姫はうなずいた。

 神田は、その咲姫の言葉に、
 「でもそのこと自体は、邇邇芸命(ににぎのみこと)が、つまり、朝鮮半島から今の天皇の祖先が渡ってきた時には、彼らとはかけ離れた容貌をしている人間が、既に日本に居たってことになるよね」と言うと、
 咲姫は、すぐに、
 「そう、弁慶の祖先がね」と応えた。

 「弁慶の祖先?」
 「これからが大事なところよ。神田君」
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