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第33話 「私たちは、ネパールへ行かなきゃ行けないのよ」 [ミステリー小説]

八頭神社(はっとうじんじゃ)

 「咲姫(さき)ちゃん、この話、どう繋(つな)がっていくんだ?もう、これ以上の詮索(せんさく)は高見刑事に任せたほうが良くはないか?」神田は目に見えない何かに絡(から)みつかれている様な気がしてきた。

 咲姫は、両手で包んでいた湯飲みを口元にもって行き一呼吸おいて、一口飲んだ。そして、
 「私も少し怖くなってきたわ。でも、もう、だめね」と、きっぱりと言って、唇を横一文字に結んだ。

 「だめ?どうして?」
 「山口さんよ」
 「山口さん?どういうことだい」日本拳法部の山口さんが何の関係があるというのだろう。一体、咲姫は、何を言い出すんだろうと思った。

 「山口さんが私たちを呼んでいるのかもしれないわ」と、目を細めて、小さくつぶやくように言った。
 「何を言っているんだい、咲姫ちゃん。山口さんが俺たちをどこへ呼んでるっていうんだい?」神田は困惑した。

 「ネパールよ」そう言って、キャシーをチラッと見、そして、神田のほうを向いた。
 「私たちは、ネパールへ行かなきゃ行けないのよ」咲姫が、言葉に力を込めたのが分かった。
 


 咲姫は、カウンターで鉄と話し込んでいるキャシーのほうを見て、
 「キャシーは来週には医療ボランティアの一員としてネパールに向かう予定になってるの」と、やや小さめの声で言った。
 神田もカウンターで話し込んでいるキャシーのほうを見た。
 「ああ、そう言ってたね」

 「キャシーは、まだ山口さんの身に何が起こったのか言ってくれていないわ。けど、10年前に何かが山口さんの身に起こったのよ。そして今も山口さんの亡骸(なきがら)はネパールの地にあるのよ」咲姫は声を落として言った。

 「待ってくれよ、咲姫ちゃん。その・・・、今まで話していた弁慶や義経、毛利元就(もうりもとなり)の三本の矢の教え、それに八岐大蛇(やまたのおろち)の話・・・」神田はここまで言って、大きく息を吸い込み、
 「それに、もともとの三本の鉄の棒の窃盗事件がどうして山口さんやネパールと関係があるんだい?」と、言うと、
 「それと、さっき言いかけた弁慶の祖先って、咲姫(さき)ちゃんは何を見つけたんだい?」神田は不安に駆られながらも、これまでのモヤモヤとした霧を晴らしたいという好奇心と苛立(いらだ)ちでだんだんと、咲姫を問い詰める口調になるのが自分でも分かった。


 咲姫(さき)は、神田(かみた)の問いかけに静かに答えた。
「それは私の頭の中で整理して、追々説明できると思うけど・・・」
 
 神田は、咲姫(さき)の頭の中で、何かと何かを繋(つな)げようとしているのを感じた。いや、もう繋ぎ終わっているのかもしれない。

 「今回の件はね、神田君。私のお仕(つか)えしている八頭神社(はっとうじんじゃ)様が私に与えられた使命だと思うのよ。私の運命だとつくづく感じるのよ」咲姫は、ジッと正面の壁を見つめた。そして、神田のほうを向いて、
 「八頭神社様は、八つの頭って書くでしょ?私は昔から思っていたの。どうして八頭神社(はっとうじんじゃ)って名前なのか。ひょっとして八岐大蛇(やまたのおろち)と関係があるのじゃないかと、ずーっと思っていたの」咲姫はこういうと、思い切ったように、
 「八頭神社(はっとうじんじゃ)ではなく、八頭蛇(はっとうじゃ)じゃないかってね」
 神田は、咲姫(さき)のやや青白くなった顔を静かに見つめた。

 咲姫は腕時計に目をやり、
 「あら、大変、もうこんな時間。すっかり話し込んじゃって、この続きはまたね」
 「また、って、いつだい?」神田の口調は自然に不服げになった。

 「連絡するわ。ちょっと熱田神宮の鉄の棒の件を調べて、その報告もしなきゃいけないでしょ?」と、にこり、と白い歯を見せて言った。
 「え!?やってくれるかい?助かるよ。咲姫ちゃんが調べてくれるなら万々歳(ばんばんざい)だよ」

 「あら、神田君はさっき、もう手をひいたほうがいい、とか言わなかった?」
 「しかし、まあ、ここまできたら・・・」神田は苦笑いをした。 
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