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第30話 草薙の剣(くさなぎのつるぎ)として名古屋の熱田神宮さんにお祀(まつり)りしてごぜえやす [ミステリー小説]

草薙の剣

 「そのドラゴンの尻尾から鉄の剣(つるぎ)が発見されたんでござんすよ」鉄は、剣を抜くまねをした。
 
 「とてもおもしろい御伽噺(おとぎばなし)ですね」とキャシーが言うのを聞いて、鉄は、
 「御伽噺(おとぎばなし)なんかじゃござんせんぜ。現に、その時の剣(つるぎ)が三種の神器(さんしゅのじんぎ)のうちのひとつの草薙の剣(くさなぎのつるぎ)として名古屋の熱田神宮さんにお祀(まつり)りしてごぜえやすから」と、眉を寄せていった。

 神田(かみた)は、「待てよ、ひょっとして、斐伊川(ひいがわ)の氾濫(はんらん)か、山津波で、上流から鉄剣が流されて来て、それの発見がこの古事記の話の元になっているのかもしれないな」と思った。

 現実に1984年(昭和59)には、谷間の急斜面から358本という大量の銅剣が発見され、日本中を驚かせたではないか。

 神田(かみた)はキャシーのほうを向いて、「その、八岐大蛇(やまたのおろち)の赤い腹は、砂鉄で赤く染まった川を表し、さらに、大蛇(おろち)の尻尾から鉄剣が発見されたという、このお話は、出雲の地方が古代から製鉄が盛んだったことを伝えていると言われているんですよ」と、鉄の話を捕捉するように言った。
 
 「今でも安来市(やすきし)の日立金属は世界最高の鋼(はがね)、ヤスキハガネを製造していますからね」と、神田が言うと、キャシーは、
 「そうですか。以前、咲姫(さき)に日本刀を見せてもらったことがありますが、とてもきれいでした。西洋の刀とはまるでちがいますね」
 「でしょ?中国山地の砂鉄を使ってタタラという日本独特の製鉄法で作られたものですからね」と言いながら、キャシーの日本に対する関心の高さを改めて感じた。

 鉄は、
 「あっしの匕首(あいくち)も・・・」
 「あんた!!」
 「おっと、こりゃ、面目ねえ」と頭に手をやり頭を下げた。

 「鉄を制するものは国を制するって言いますけど、昔の出雲も力を持っていたでしょうね」キャシーは、神田の意見を求めるように顔を見て、
 「日本だけでなく、世界の歴史を見てもそうですから」と、付け加えた。
 神田は、
 「そうですね。出雲の勢力圏は今の新潟や信州、紀伊半島、さらには北部九州にまで及んでいたと言う説もありますからね」と、言って、
 「女将さん、お茶を」と湯飲みを持つ格好をした。

 「新潟には出雲崎(いずもざき)と言うところがありますし、鉄さんの田舎の信州は、さっきの国譲り神話の話に出てきたように、天照大御神(あまてるおおみのかみ)から命令された建御雷之男神(たけみかつちのおかみ)に力較べで負けた健御名方神(たけみなかたのかみ)の亡命先になっているし・・・」ここまで言うと、キャシーは、
 「そうでした。それで、逃げて来たその出雲の神様を閉じ込めているのが諏訪大社でしたね」言った。
 神田は
 「キャシーさん、よく覚えていますね」と驚いた。
 「頼朝の居た伊豆(いず)も出雲(いずも)と関係がありそうですしね」と言い、鉄には聞こえないように、
 「それに、一般には弁慶の出身は和歌山だと言われていますから」と、付け加えた。
 鉄は、
 「え?何ですかい?」と、耳を神田のほうに向けた。

 「咲姫(さき)、どうかしましたか?」キャシーは、咲姫が先程から黙っているのが気になって尋ねた。
 咲姫は、
 「いえ、なんでもないのよ。ただ・・・」と、言葉を濁(にご)した。
 「ただ・・・、何ですか?少しお酒飲み過ぎましたか?」キャシーはそう言って、咲姫の前にある空になったグラスを見た。

 咲姫は、
 「キャシー、私は、キャシーも知っているようにウワバミなのよ」と言って笑った。
 「ウワバミ?」キャシーは眉を寄せて、首をかしげた。
 「ふふ、大酒飲み、お酒には強いってことよ。これくらいでは・・・」
 神田も笑って、
 「ははは、学生時代から八岐大蛇(やまたのおろち)なみだったからな、咲姫ちゃんは」
 「あら、そんな風に思っていたの?」と、咲姫は、怒ったふりをした。
 「いや、いや」神田は目の前で手を振り、
 「で、どうしたんだい?」神田も、咲姫が急に黙ったのが気になっていたのだ。

 「さっき、ご主人が、出雲の鉄から、そして、弁慶と鉄の関わりについてお話されたでしょ」そう言って主人の鉄の顔を見た。
 「それで、頭の中が急に熱くなってきて、いろんな考えがクルクル廻ってね・・・」と、右手の人差し指をクルクル回した。

 神田は咲姫が何を言い出すのだろうかと怖くなった。
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