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第28話 三本の矢は弁慶の命を奪った矢ではないかと [ミステリー小説]

 鉄の棒に閉じ込められた三本の矢は、宮島、富士山、熱田神宮、それらは海の民、山の民、里の民の支配、すなわち、日本の国土を支配することを意味していた。

 しかも、その三本の矢は、日本国の支配者であることの証明書とでも言うべき、三種の神器(さんしゅのじんぎ)、すなわち、八咫鏡(やたのかがみ)、八坂瓊曲玉(やさかのまがたま)、草薙の剣(くさなぎのつるぎ)と関連がある。

 そしてそれは、源頼朝と義経の確執にも繋(つな)がり、さらには、大江広元(おおえのひろもと)へ、そして、毛利元就の三本の矢の説話もここから生まれたのではないかとも考えられるのだ。

 そして今、咲姫は、その三本の矢は弁慶の命を奪った矢ではないかと言うのだ。

 「弁慶は、義経が持仏堂(じぶつどう)の中で自らの命を絶つのを邪魔させまいとして、持仏堂の前で無数の矢を体に受けながらも薙刀(なぎなた)を地に突き立て、仁王立ちのまま絶命したといわれているわね」咲姫は姿勢を正して話を続けた。

 「五条の橋の一件以来、常に義経の身を守り、支えてきた弁慶の最期(さいご)に相応(ふさわ)しい立ち往生だったろうな」神田も感慨深げに言った。そして、
 「弁慶は修験道のネットワークを駆使して、義経の逃避行の先導役を務め、義経を支えてきたのは事実だろう」そう言うと、神田は、炊き込みご飯を瞬きもせずに顔を前に向けたまま、一口食べた。
 「でも、逆にそのネットワークを伝わる情報が逆流して頼朝サイドへも流れてしまったということも十分に考えられると思わない?」
 「そもそも、弁慶自身は修験道グループのアウトローだったじゃないの」
 「あー、たしかに、比叡山を追い出され、各地を転々とした後に、修行中の書写山(しょしゃさん)の圓教寺(えんぎょうじ)の堂塔に火を放って大騒動を巻き起こしたりした、まさに、暴れん坊だよね」

 「牛若丸と出合ったのも、その償(つぐな)いのために、千本の刀を得て、お寺再建の釘代を工面しようとしたためだったんだからね」と、弁慶が京の五条の橋の上で牛若丸と闘うシーンを思い浮かべた。

 「反弁慶派の存在があってもおかしくはないわ。修験道の反弁慶派のグループが、来るべき頼朝の天下で優位な位置を得ようとする目論見と、頼朝と大江広元(おおえのひろもと)の目論見が一致したのじゃないかしら」と言うと、
 「つまり、義経と弁慶の排除、という点で一致したって言うことか」と、神田が繰り返した。
 咲姫がさらに、
 「そして、義経の首と、弁慶の命を絶った三本の矢が頼朝の元へ届けられる予定だったけど・・・」と言うと、
 「頼朝の首は腐敗してしまい、首実検に耐えられる状態ではなくなり、三本の矢だけが頼朝の元へ届けられた」神田はその後を続け、「なるほど」十分に考えられるな、と思った。

 「頼朝は自分自身で義経の死を確認できなかったために不安で慄(おのの)き、政(まつりごと)に支障を来たすことを危惧(きぐ)した大江広元は、弁慶と義経の怨霊(おんりょう)を封じ込めるために三本の矢を鉄の棒に閉じ込めて、海、山、里の象徴である宮島、富士山、熱田神宮のそれぞれに閉じ込めた」神田は一気にここまでしゃべり、息を吸い込み、
 「これでご安心召されよ、天孫降臨(てんそんこうりん)の古(いにしえ)よりの要(かなめ)の地に三本の矢をお祀(まつ)りすれば、頼朝様の天下掌握は磐石(ばんじゃく)のものとなります、と、こういう訳か」うーん、と神田は目を閉じ腕を組んだ。

 咲姫は炊き込みご飯を一口に運び、じっくりと味わうと、
 「その実際の作業は、修験道の役小角(えんのおづぬ)の末裔達(まつえいたち)が手を貸したのだと思うわ」と、続けた。
 神田(かみた)は、腕組みをして息を吸い込み、
 「ふーっ」と、息を長く吐き出した。

 咲姫(さき)も炊き込みご飯の椀を左手に持ち、右手には箸を持ったまま、ぼんやりと壁を見つめていた。

 そんな様子を見て、キャシーが、
 「ふたりとも疲れましたか?」と顔に笑みを浮かべて、下から咲姫の顔を覗き、そして、神田の方に向かって、片目を閉じてウィンクした。

 「い、いや、・・・これから先のことを思うと、体に鉄のよろいを着けているようですよ」と言いながら、右手で左肩を揉んだ。そして、
 「鉄の棒が宮島、富士山、熱田神宮に隠され、いや、祀(まつ)られていた、と言うべきかな。その理由は咲姫ちゃんの推理通り、頼朝にとって邪魔になった義経と弁慶の怨霊(おんりょう)を封じ込めるため、そして、そうすることが頼朝の日本支配を磐石(ばんじゃく)にするためだとしても、・・・そもそも、どうして、その三本の矢を必要とする人間がいるんだ?」天井を見上げて、首をコキ、コキ、と鳴らした。

 咲姫(さき)も、口の中で、
 「何のために・・・」とつぶやいた。

 神田も
 「どうして、中国はそれを狙ったんだ」と自分に問いかけた。
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