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第26話 義経が壇ノ浦の戦いで捕虜にした平宗盛(たいらのむねもり)を連れて鎌倉に入ろうとした時には、頼朝は義経に鎌倉入りを許さなかったの [ミステリー小説]

 「頼朝、義経兄弟の確執は確かにあったと思う。頼朝は義経の人気に嫉妬(しっと)し、義経の天才的な知略を恐れたのは確かだろう。頼朝にしてみれば、自分は正室の長男、義経は妾(めかけ)の子。その妾の子が自分よりも人気が出てきたのは面白くないだろう、とは想像できる。でもそれが今回の三本の鉄の棒にどう関わってくるんだい?」
 「さあ、ここからがこの問題の核心ね」咲姫は正座をしたままテーブルの方へ少しにじり寄った。
 「さっき、ご主人が、三本の矢、と言えば、毛利元就(もうりもとなり)様だ、と言われたでしょ。それを聞いて、ぱっ、と、ひらめいたの」そう、やや大きな声で首を伸ばし、カウンターの中の鉄に聞こえるように言った。

 「へへ、そりゃ、面目ねえ」鉄は背筋を伸ばし、座敷のほうを向いて、笑顔で頭を下げた。

 「神田(かみた)君が言ったように、義経は、次々と平家軍を打ち負かし、民衆の人気もうなぎのぼりになり、後白河法皇(ごしらかわほうおう)も義経びいきになってしまったでしょ」
 確かに、法皇は義経に次々と官職を与えている。
 「法皇の、義経と頼朝の仲を裂く作戦だったようだけどね」
 「そうね。頼朝の義経に対するライバル心をうまく利用した法皇の作戦勝ちってとこね」

 「法皇は頼朝を牽制(けんせい)するために純な義経をうまく利用したのだろうな」
 「それはともかく、義経が最終的に壇ノ浦の戦いで平氏一門を滅ぼすと、頼朝は考えたのよね。このまま義経が力を蓄えたまま、法皇の後ろ盾を元に奥州の藤原一門と手を組んだら、自分自身が危ない、と」



 「そして、義経が壇ノ浦の戦いで捕虜にした平宗盛(たいらのむねもり)を連れて鎌倉に入ろうとした時には、頼朝は義経に鎌倉入りを許さなかったのよね」咲姫はほんの一瞬まぶたを閉じた。
 「ああ、義経にしてみれば、兄の頼朝からどうして嫌われるのか分からず悩んだだろうね」神田はそう言うと、唇を一文字に結んだ。
 「そこで、義経は、頼朝に対する忠誠心や、弟として兄に対する心情を文書にして、頼朝の参謀に、頼朝との仲のとりなしを頼んだわけね」咲姫は右手でペンを持つ格好をした。

 「それが有名な腰越状(こしごえじょう)だね。今も下書きが残ってて、それを読むと、義経の純真な心が伝わってくるよ。もし、頼朝がそれを読んでいたら、歴史は変わっていたかもしれないね」神田は咲姫の同意を求めるように咲姫の顔を見た。
 咲姫は神田の視線を頬で受けながら軽くうなづいた。
 「ところが、その文書は、握りつぶされ、頼朝に義経の気持ちは伝わらなかったんだからね。かわいそうなもんだよ」神田は首を振った。

 「その文書を握りつぶしたのが大江広元(おおえのひろもと)、毛利元就のご先祖様よ」咲姫は、やや強い口調でそう言うと神田の顔を見た。
 「そうか!そうだったね」
 神田(かみた)は、この店の主人、鉄が言った、三本の矢といえば毛利元就様だ、という言葉から、一挙にここまで推理の枠を広げ、絡(から)んだ糸をほどいていく咲姫(さき)の推理に驚いた。
 そして、咲姫が、三本の鉄の棒をめぐって、謎の大男と中国との関わり等、複雑に絡み合った糸を、一本一本ほどいていることを感じていた。

 神田は、今回の事件により、今までは見過ごされてきた、日本の陰の歴史の一部に光をあてることが出来るのではないか。また、その一方で、このまま行くと、現在の国際政治の闇の中で蠢(うごめ)いている得体の知れない何かに、自分達が巻き込まれるのではないかという漠然(ばくぜん)とした不安が湧き起こってきた。

 「もう、このあたりで手を引いた方が無難かもしれない」神田はそう思い始めていた。

 しかし、歴史の糸はすでに神田や咲姫、キャシーまでにも絡まり始めていた。
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