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第25話 三種の神器(さんしゅのじんぎ)は、日本の支配者の証明書であると同時にそこには海、山、里を支配下に治(おさ)めようとする強い思いが込められている [ミステリー小説]

 三種の神器

 「天皇様が天皇様であるための証(あかし)で最も大事なものは・・・」咲姫(さき)がここまで言うと、神田(かみた)は、
 「三種の神器(さんしゅのじんぎ)だろ」と、先に口にした。

 「そう。天孫降臨(てんそんこうりん)、つまり、ご皇室のご祖先様が朝鮮半島から日本へ来るときに、天照大御神(あまてるおおみのかみ)が孫の邇邇芸命(ににぎのみこと)に与えた身分証明書みたいなものね」

 「八咫鏡(やたのかがみ)、草薙(くさなぎ)の剣(つるぎ)、八坂瓊曲玉(やさかのまがたま)だ・・・ね」神田は膝を組みなおした。

 「この鏡、剣、玉、って聞いて、何か思いつかない?」咲姫が再び神田に問いかけた。
 「ん?・・・」咲姫(さき)の問いかけに右肘(みぎひじ)をテーブルの上に置き、体を咲姫のほうへ向けた。
 咲姫(さき)は続けて、
 「天皇様のご先祖様が朝鮮半島からこの日本へやって来る最初の難関はなんだと思う?」と神田に微笑みながら尋ねた。

 「最初の難関?・・・それは、玄界灘(げんかいなだ)だろうな。俺も何年か前に韓国へフェリーで渡ったことがあるけど、それは、穏やかな瀬戸内海とは大きな違いがあるよ」と、地理的なことしか思い浮かばず、それを口にした。

 「でしょ。おそらく、彼らが初めて瀬戸内海を見たときには、鏡のようだ、と思ったでしょうね」
 咲姫の考えもまた、意外にも、神田と同じ考えであった。
 咲姫は間合いをおかずに、
 「そして、山から取れる石を材料にした勾玉(まがたま)」と、続けた。
 「!」
 「草薙の剣(くさなぎのつるぎ)は日本武尊(やまとたけるのみこと)が焼津の草原で敵に火を放たれ危機に陥った時に、草を薙(な)ぎ払ってその危機を脱したお話があるでしょ。その時の剣が草薙の剣(くさなぎのつるぎ)」
 「薙(な)ぎ払う、つまり、平定っていうことか」
 「三種の神器(さんしゅのじんぎ)の、鏡は海、勾玉(まがたま)は山、剣(つるぎ)は里、と、ぴったり重なり合うのよ」


 咲姫は、
 「三種の神器(さんしゅのじんぎ)は、日本の支配者の証明書であると同時にそこには海、山、里を支配下に治(おさ)めようとする強い思いが込められていると思うの」と、もはや、推測ではなく、事実であるかのようにはっきりとした口調で言った。
 「うーん、すると、鏡の宮島、勾玉(まがたま)の富士山、そして剣(つるぎ)は・・・」と、神田が口にした疑問に咲姫は、
 「草薙の剣(くさなぎのつるぎ)は熱田神宮(あつたじんぐう)にご神体(しんたい)として祀(まつ)られているわ」と、幾分緊張した顔で言った。
 「あっ!!」思わず声が出た。そうだった、神田は、その剣(つるぎ)は、終戦後、占領軍による没収を恐れて、一時、密かに別の場所に移されていた時期があった、という噂を聞いたことがある。
 
 咲姫(さき)は、テーブルの上のグラスに手をかけ、
 「そして、これらの神社に共通することは、厳島神社(いつくしまじんじゃ)、富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)、そして、熱田神宮(あつたじんぐう)の宮司(ぐうじ)は、日本の神社の三大宮司なの」と、そのグラスを持ち上げた。
 「なんだって!」
 「しかも、頼朝の母親は熱田神宮の宮司の娘なのよ」と、神田のほうに向け、乾杯の仕草をした。

 「あっ、そういえば、熱田神宮の大宮司は藤原季範(ふじわらのすえのり)だったね」そうだった、神田は組んだ膝頭を、ポン、と叩いた。

 確かに、頼朝は父、源義朝(みなもとのよしとも)と、藤原季範(ふじわらのすえのり)の娘の由良御前(ゆらごぜん)に生まれた子だ。しかも、義経とは違い、母親は頼朝の正室、いわば、正真正銘の源氏の直系になる。

 「日本の、いわばトップ3のひとりの宮司の娘が頼朝の母親かぁ。しかも、海と山に加えて里を平定する意味のある草薙(くさなぎ)の剣が祀(まつ)られている、となると、なるほど、咲姫(さき)ちゃんの言う通り、三本目の鉄の棒は、熱田神宮に隠されている可能性が高いね」神田は、咲姫の推理の鋭さに驚いた。



 「それと、今思い出したわ」咲姫は背中をそらせ、
 「頼朝が源氏の再興(さいこう)を願って足しげく通った三嶋大社の中には、頼朝の妻の北条政子が深く信仰していた厳島神社があるのよ」と、以前、剣道大会が開かれた時に立ち寄った大社の姿を思い浮かべながら言った。

 「これはもう決まりだな」神田は、富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)にも厳島神社があったことを思い出した。

神田(かみた)が、グラスを持ち、咲姫(さき)とキャシーの方にささげ、乾杯の仕草を取ると、咲姫も再びグラスを持ちグラスを上げた。
 キャシーも、よくは分からないまま、にこりと微笑み、グラスを上げ、三人は、コチ、コチ、と、グラスを鳴らした。
 三人はカラン、と、氷を鳴らし、それぞれのグラスを空にした。

 女将が、
 「問題解決ですか?」と声をかけた。
 神田は、苦笑いをしながら、
 「そう願いたいところですが、次の問題が・・・」と言うと、咲姫のほうを向いて、
 「咲姫(さき)ちゃん、最初に言った、頼朝が恐れていたのが義経だって件を聞かせてくれよ」そう言うと、女将に向かって、
 「あ、女将さん、茄子(なす)と茗荷(みょうが)のすまし汁と炊き込みご飯を」と、最初に咲姫が注文しようとしたメニューを頼んだ。
 「はい、承知いたしました」女将は、空になった器を盆に載せ下がった。

 神田は、「次々と疑問が浮かび上がってくるが、咲姫は、神田の考えのはるか先が見えているのだろう」と思った。
 そして、次の疑問を口にした。

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