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第22話 神社の起源にはいろいろな説があるけど、私は、お墓と同じ考え方があるんじゃないかと [ミステリー小説]

  「その国を奪われた人の大宮殿があの神棚の本家、本店、ヘッドクォーター、出雲大社(いずもおおやしろ)なのよ」咲姫(さき)はカウンターの中の神棚にグラスを向けた。
 キャシーは、神棚のほうを見ていたが、不思議そうな顔をして、
 「じゃあ、国を奪った人が、奪われた人のために、宮殿を建てたのですか?」と、咲姫の顔を見た。
 咲姫は、
 「そう。言ってみれば、豪華な牢屋(ろうや)みたいなものね」と、やや顔を上に向け空(くう)を見るようにして言った。そして、キャシーの方を見て、
 「だから、今でも、出雲大社をお参りするときは、他の神社と違って、拍手は4回するのよ。それは、日本人は、言葉の発音を重要視するから、4回の、シ、は、死、とか、古代では、ヨン、は黄泉(よみ)、のイメージがあるからなのよ」と続けた。「黄泉(よみ)って言うのは、つまり、そのォ、亡くなった人が埋葬されている地面の下ってことね」
 咲姫の説明に、キャシーは興味深そうに頷(うなず)いた。
 「だから、拍手を4回して、あなたはもう死んでいるんですよ。出てこないでね、ってことを伝えているのよ」

 神田もそれに付け加えて、
 「そう。だから、注連縄(しめなわ)も他の神社とは逆方向になっているんですよ。それは、亡くなった人の着物の襟(えり)の重ねを、生きている人の重ねとは逆にする、左前、と同じ意味で、死んだ人に対する作法そのものなんです」
 キャシーは興味深そうに神田と咲姫の話を聞いている。
 咲姫は、
 「そもそも、本殿はそっぽを向いている構造になっているものね」神田の顔を見てそう言った。
 「え、そうなのかい?」神田はそのことは初めて聞いた。
 「そうよ。拝殿で一所懸命に、結婚できますように、とか、家内安全とかのお願いをしても、肝心の神様は横を向いているのよ。それは、本殿の配置を見れば一目瞭然よ」そう言って、テーブルの上に指で簡単な配置を描きはじめた。
 神田は咲姫の剣道をやっているにしては細い指先の動きに見とれてしまった。
 「ね。こういうふうになっているのよ」そう言って顔を上げた。
 「あ、・・・ああ、なるほど・・・」咲姫の顔が思いのほか近づいたので、神田は、思わず体を起こした。

 「神社の起源にはいろいろな説があるけど、私は、お墓と同じ考え方があるんじゃないかと思っているのよ」咲姫(さき)は、そう言いながら神田(かみた)を見た。
 「と、言うと?」神田は、よく冷えた出雲のお酒を、グッ、と一口飲んだ。

 「今でも古い神社は本殿(ほんでん)を持たない神社があるでしょ。奈良の大神神社(おおみわじんじゃ)や、石上神宮(いそのかみじんぐう)のような」咲姫もグラスをカラカラと回し、一口飲み、
 「それとか、村の鎮守様(ちんじゅさま)とか、こんもりした山に小さな神社があるでしょ。そのこんもりした山は古墳、つまりお墓だと思うのよ」
 「なるほど」
 「私のお仕(つか)えしている八頭神社(はっとうじんじゃ)様もそうよ」
 神田は、高見と訪れた八頭神社のこんもりとした杜(もり)を思い出した。

 「だから神社を参拝してお願いをすることと、お墓参りをして、ご先祖様に、おじいちゃん、おばあちゃん、私たち家族を見守ってくださいね、って言うのは同じことなのよね」
 「お墓から出てこないで下さい。そこから私たちを見守っていてください、と言うのと同じことだと思うのよ。ほら、最近、テレビで話題の細木数子さんなんかも、相談者に、ご先祖様のお墓参りをしなさいって、しきりに言うのは、そういう意味もあると思うわ」

 神田はキャシーのグラスが空になったのを見て、女将にお酒の追加を頼んだ。



 「だから、あの件も、頼朝は日本を支配すると同時に、何かを恐れて封じ込めようとしたのかもしれないわ。日本の東の象徴、源氏の白を表す富士山、そして、西の象徴、平氏の赤を表す宮島」咲姫は自分に言い聞かせるようにゆっくりと話した。

 「と、同時に、山と海」神田は咲姫の言葉を受けて言った。
 「頼朝は、あの鉄の棒に関わりのある何かを非常に恐れていたってことだね」
 「そう。あの鉄の棒に埋め込まれている矢尻に関わりのあるものが何かが分かれば、この話は意外と早く解決するんじゃない?」
 「三本の鉄の棒、三本の矢尻かぁ・・・」神田は、カラン、と氷の音をさせて、酒を飲み干した。

 「折湯葉の煮物あがりやした」鉄の声がカウンターの中から聞こえた。そして、
 「神田の旦那、毛利様のお話ですかい?」と、鉄は聞いた。
 「え?」神田は鉄のほうを向いた。
 「へへ、こりゃ面目ねえ。つい、余計なことを。へへっ。いえね、三本の矢って、いやぁ、毛利元就(もうりもとなり)様のことだと思いやしてね」

 「お前さんも、学のないくせに余計なことを」と女将が冗談っぽく鉄に言った。

 神田と咲姫は顔を見合わせてしばらく沈黙した。
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